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山本寛斎デザインの「スカイライナー」コンセプトは「SOTO」

ライフ・マネー 投稿日:2020.08.23 11:00FLASH編集部

山本寛斎デザインの「スカイライナー」コンセプトは「SOTO」

スカイライナー新AE形

 

 7月21日に亡くなった、ファッションデザイナーの山本寛斎さん。ロンドンで日本人初のファッションショーを開催し、デヴィッド・ボウイのステージ衣装を手がけるなど、世界に名を轟かせた人物だった。

 

 しかし、寛斎さんが制作したのは服だけではない。2010年から運行されている「京成スカイライナー新AE形」は、寛斎さんがデザインを請け負った、最初で最後の車両だ。

 

 

 京成スカイライナーが走るのは、京成上野駅から成田空港駅まで。旅行の際に乗ったことがある人も多いのではないか。最高速度は時速160kmと、新幹線を除く在来線のなかでは最速となる。

 

 なぜ寛斎さんはこのスカイライナーをデザインすることになったのか。京成電鉄で、当時車両設計の担当者をしていた真壁芸樹氏は、「寛斎さんを起用することが決まったのは、2006年2月のことでした」と語る。

 

「本来、車両デザインは車両メーカーのデザイナーを起用するのが主流です。しかし当時、JR九州の車両を水戸岡鋭治さんがデザインされたように、外部デザイナーを起用することが増えてきたのです。

 

 そのため、新しいスカイライナーの車両デザインも、広く活躍する方を起用する方向で話がまとまりました。他社の外部デザイナーは工業デザインで有名な方ばかりでしたから、差別化を図る意味もあり、ファッション業界の第一人者である寛斎さんに依頼した次第です」

 

 企画が本格的に動き出したのは、2006年の4月から。寛斎さんとともに、デザインの「コンセプト」を決めるとこから始まったが、この段階に半年以上の時間を費やした。

 

「我々はどうしても技術屋で、コンセプトワークなどはまったくの素人でした。そのため、寛斎さんの提案で、まずはチーム全体で共有できる価値基準を決めました。

 

 何度目かの会議で、寛斎さんから出していただいたのが、『SOTO(そうとう)』という言葉。SがSmart、Oが『速く走る』のOutride、Tが『優しく』のTender、Oは『得する』のOffpriceです。

 

 この4文字を達成するにはどうすればいいかを考え、コンセプトを絞っていきました。『そうとう』という言葉をもじって『相当高いレベルを目指そう』なんて言いあって。2006年の年末には、外観は『風』、内観は『凛』というコンセプトに決定しました」

 

 年が明け、2007年から外観・内観デザインの打ち合わせが始まった。「無駄なものをそぎ落とし、そぎ落とせないものはいかに美しく見せるか」と、寛斎さんは繰り返し話していたという。

 

開放感のある内観

 

「内観は、客室やシート間にゆとりをもたせ、デッキとの仕切りには透明感のあるガラスを使用するなど、開放感のある設計がポイントです。

 

 車体の色味にも、寛斎さんはかなりこだわっていらっしゃいました。先代のAE100形という車両へ、実際に試し塗りを何度もおこなって、太陽の下でどう発色するかを細かく確認されていました」

 

 2009年4月には車両が完成し、各種試験を経て2010年7月から運行が始まった。「いい意味で京成らしくないデザイン」と好評を博し2010年には優れたデザインに贈られる「グッドデザイン賞」を、2011年には優れた鉄道車両に贈られる「ブルーリボン賞」を獲得している。

 

「それまでの京成電鉄のイメージは、切ないことですが、ダサイとか田舎臭いというのが一般的で……(笑)。でもあの車両をきっかけに、『かっこいい』と言われるようになりました。ブランドイメージがだいぶ向上したと感じています」

 

 寛斎さんの訃報が流れた際、SNS上では「スカイライナーをデザインした寛斎さんが……」と、鉄道ファンからの声も多く上がっていた。

 

「『スカイライナーをデザインした人』と思い出してもらえるような、そんなデザインをしてくださったことに、本当に感謝しています。

 

 依頼から完成まで、実に4年間もかかりましたが、そうして作り上げたスカイライナーには、あちこちに寛斎さんのエッセンスがちりばめられています。数ある寛斎作品のなかでも、もっとも素晴らしい作品の一つだと思っています」(真壁氏)

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