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寒い家には住むな!家が暖かければ健康でいられる理由とは

ライフ・マネー 投稿日:2020.11.07 16:00FLASH編集部

寒い家には住むな!家が暖かければ健康でいられる理由とは

 

 室温は、脳の若さに影響を与える――。そう知ったら、とても驚くのではないでしょうか。

 

 慶應義塾大学の伊香賀俊治教授率いる研究チームが40代から80代までの約150人の脳を特殊なMRIで調べると、「寒い家に住む人」は「暖かい家に住む人」と比べて、脳神経の質が低下する傾向にあったのです。

 

 

 伊香賀教授と、星旦二医師らは、2002年から高知県梼原(ゆすはら)町で全町民のおよそ3分の1を対象に、「住まいと健康」に関する大規模疫学調査を行ってきました。

 

 なぜ梼原町なのかというと、この町では高齢者が40%以上を占め、「日本の2050年の姿」とされているためです。国土交通省は梼原町の調査で得られた成果を、これから高齢化を迎えようとする都市部を含めた全国へ応用したいと考えました。

 

 調査の結果、驚くべき事実が次々と明らかになりました。

 

 たとえば高血圧発病確率。夜中の0時の時点で居間の室温を18度以上に保てていた人の高血圧発病確率に対して、18度未満の家に住む人は高血圧を6.7倍も発症しやすいという結果でした。

 

 発病確率ではなく死亡確率でみると、夜間室温が9度未満の室内環境で生活している人は、9度以上の室内環境で生活している人よりも4年間に循環器疾患で死亡するリスクが4.3倍高くなることがわかりました。

 

 これらの研究は年齢や性別、職業、喫煙、飲酒、食事の味付けなどはすべて調整してあります。つまり簡単にいうと「室温」のみで、ここまでの差が出てしまうということです。

 

 高知県と聞くと、南国土佐の暖かいイメージがありますが、梼原町は標高220~1455メートルの急峻な地形で、同じ町内でも気候の差があるものの、全体的には冬場寒くなる町です。

 

 その上、高齢化率も世界トップクラスなのですが、町民の健康状態は上向きになっているとのこと。「調査を始めた当初より寿命が延びている。住まいの効果が出てきていると思う」と星旦二医師も補足します。

 

 この町でいったい何が起きているのでしょうか。その暮らしぶりを見るために、2019年冬に取材に出かけました。

 

「年を取るとともに寒いとなったら工夫をしないと。これぐらいは我慢できる、という気持ちはダメ。24時間のうちの半分以上は家で生活していて、人生100年なら50年以上は家の中という計算。健康を守るのに家ほど大事なものはない」

 

 梼原町の中心部から車で40分ほどの山間部にある松原地区に住む、82歳の下元廣幸さんはそう言い、「松原地区では80代前半の私も若いほうに入る」と笑います。60代はまだまだ “若造” というほど、梼原中心部よりも松原地区では高齢化が進んでいます。

 

 下元さんの家は築24年と、それほど新しくはないのですが、窓を複層ガラスにしているため、室内にお邪魔すると、鋭い寒さは感じませんでした。お会いした時は夜で、外気温は7度でしたが、下元さんの家の玄関先は20度近くまであったのです。

 

 室内を暖かくするポイントは「窓」にあります。冬場は窓からおよそ60%の熱が逃げます。そのため、通常の窓に内窓をプラスしたり、複層ガラスの性能のいい窓に交換したりすると、暖房の効きがよくなって室内の寒さが和らぐのです。

 

 町の中心部に14年前、美容室兼自宅を新築した戸梶圧美さん宅は、暖房なしでも室内が均一の温度に保たれていました。自宅と美容室がひと続きの構造で、美容室は比較的日当たりがよく、自宅はあまり日が入らないのですが、室温計はどの位置でも18度以上を示していました。戸梶さんは「今の家は最高。健康には食事も運動もだけど、環境も大事よね」と繰り返し言います。

 

「前の美容室では暖房をなんぼ入れても、お客さんから足元が寒い寒いって言われていたんです。でも今はお店も自宅も、誰からも寒いとは言われません。真冬でなければ暖房がいらないぐらい暖かい。だから私もたくさん着込みません。外が雪でも、部屋着のワンピース1枚でいられる。羽織っても1枚です」

 

 この「着込まない」ということが、居住者の室内における活発性を増し、筋肉量の維持、脳への健康につながることがわかっています。

 

 長年梼原町の脳ドックを解析している内田脳神経外科の内田泰史医師は「暖かい家にいることで背筋が伸び、動きやすい姿勢になる。よく動くことで筋力が鍛えられ、活動することで脳の前頭前野の部分が活発になる」と説明してくれました。

 

 脳の前頭前野とは、人の意欲の根源である場所。認知症初期には「物忘れ」が増えますが、これは前頭前野の働きが悪くなることから始まるのです。楽しみでやっていたこと、趣味などに興味がわかなくなるのが、脳の衰えの一歩というわけですね。

 

 戸梶さんは71歳ということですが、少なくとも10歳以上若く見えました。内田泰史医師によると「見た目」と「脳の若さ」も関係あるそうです。暖かい家に住む→体が動きやすい→動くことで脳が刺激を受け、さらに活動の意欲がわく→脳神経が若くなる、というよい循環なのでしょう。

 

 実際に伊香賀俊治教授の脳検査では、戸梶さんの血管年齢は50代だったといいますから驚きです。2年前と現在で「脳の状態」を比較する検査でも、戸梶さんを含む「暖かい家」に住むグループは、高齢にもかかわらず、脳機能が2年前と同等に維持されていました。一方、「寒い家」に住むグループは、たった2年で脳の機能低下が認められていたのです。

 

 

 以上、笹井恵里子氏の新刊『室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる』(光文社新書)をもとに再構成しました。頻尿、不眠、睡眠の質などを「住環境」で改善するアイデアとは?

 

●『室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる』詳細はこちら

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