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金持ちが都心の一等地に一戸建てを買う理由は…「甘すぎる相続税」のおかげ
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2021.02.03 16:00 最終更新日:2021.02.03 16:00
所得税や住民税、消費税や法人税など税制を全部ひっくるめて見たとき、今の日本の相続税の重さはバランスが軽すぎると思う。
日本人全体が今持っている純資産(総資産マイナス借金)は、ざっと計算して6000兆円ある。ということは、「30年で一世代が交代する」と仮定するならば、1年当たり200兆円の相続財産が出ているはずだ。
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国税(58兆4415億円)の税収内訳を、具体的に見てみよう(2019年度)。
▼所得税 19兆1707億円(32.8%)
▼法人税 10兆7971億円(18.5%)
▼消費税 18兆3527億円(31.4%)
▼その他 10兆1210億円(17.3%)
「その他」の10兆1210億円を、さらに細かく見ていこう。
▼揮発油税 2兆2808億円
▼相続税 2兆3005億円
▼酒税 1兆2473億円
▼印紙収入 1兆232億円
▼たばこ税 8737億円
1年当たり200兆円の相続財産が出ていると予想されるにもかかわらず、なんと相続税収は2兆円ちょっとしかないのだ。相続財産の1割を相続税で取ったとしても、毎年20兆円の相続税収になるはずだ。
なぜここまで相続税収が少ないのだろう。相続税には、とてつもなく複雑なルールがあり、うまいこと節税処理をすれば、当局に納めるはずだった相続税を一気に減らせる。そのテクニックを知っている大金持ちの独り勝ち状態なのだ。
相続対策で巨大なメリットをもたらすのは「小規模宅地等の特例」という制度だ。この特例を使うと、居住用に使っている土地の評価額を5分の1まで減額できる。
赤坂や青山など東京都心の超一等地に一戸建て住宅をもっていると、土地の評価額だけで何十億円にものぼる。そこに「小規模宅地等の特例」を適用して評価額を5分の1に見積もれば、30億円であるはずの土地を6億円とみなして相続できる。とんでもない減税だ。
いったいなぜ、税務当局はこんな特例を放置しているのだろう。この特例をフル活用すれば、億単位で払うはずだった相続税を大幅に圧縮できる。この制度にメスが入らないのは、一等地に豪邸を構える富裕層への配慮以外に考えられない。
土地や住宅については、固定資産税の課税標準にしたがって相続税を課せば、とても公平だと思う。実際、建物はそうなっているのだが、土地に関しては、路線価という別の基準が使われ、さらにそこからさまざまな特例で減額措置があるのだ。その特例の仕組みは、複雑怪奇だ。
精神科医にして教育評論家でもある和田秀樹氏は、昔から「相続税率は100%でよい」とドラスティックな主張をしてきた。親が死んだとき子どもにはビタ一文渡さず、当局が全額没収しろというのだ。
もし相続税率が100%だとすると、夫が死んで妻が未亡人になったとき、家を没収されて住むところがなくなってしまう。これはかわいそうだし、人道的に問題だ。
だが、冷酷非情ではあるが、そこを思い切って改革すれば、とてつもない税収増になる。なにしろ日本では毎年200兆円もの相続財産が出ているのだ。超富裕層を敵に回すことにはなるが、政府は相続税という玉手箱に手をつけなければならないと思う。
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以上、森永卓郎氏の新刊『相続地獄 残った家族が困らない終活入門』(光文社新書)をもとに再構成しました。ある日突然ふりかかり、一歩間違えると泥沼にはまる相続問題。自身の経験をもとに、今日からできる生前整理術を伝授します。
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