●ペイペイ、7payの不正利用事件で「補償」の責任が問われるも…
もうひとつ、山田氏が懸念するのは、セキュリティ上の問題だ。
「給与振込みに付随して、いろいろなサービスが一元的につながることになると思いますが、多くのネットワークがつながればつながるほど “情報の隙” が生まれます。
はたして本当に、我々の資産に対する安全性が守られるのか。そこをしっかり議論していかないと、この制度は進めるべきではないと思います」
実際に、電子マネーの不正利用にまつわる大きな事件はいくつか発生している。2018年12月、「100億円あげちゃうキャンペーン」を実施していたペイペイに、「身に覚えのないクレジットカードの請求が来た」という、利用者からの問い合わせが相次いだ。
2019年7月には、セブン&アイ・ホールディングスが運営する「7pay」でも、同様の不正利用が判明。サービス開始からわずか3日でサービスに制限がかけられ、9月30日にはサービスそのものが廃止される事件に発展した。そして2020年9月には、NTTドコモの電子決済サービス「ドコモ口座」で、不正に口座からお金が引き出される、という報告が相次いだ。
「いずれの事件も、なんらかの手段でクレジットカードの情報を知った第三者が不正利用したものとみられますが、企業側の、本人を確認するための認証作業が非常に緩かったということも明らかになっています。
メールアドレスだけで簡単に登録できたり、パスワードが二重、三重の認証になっていなかったり。セキュリティがあまりにも脆弱だったのです」(山田氏)
電子マネーが給与振込みまで扱うようになれば、こうした犯罪が頻発する可能性があるという。そして恐ろしいのは、その補償について業者によってばらばらで、あいまいな部分も多いということだ。
銀行なら仮に破綻しても、預金保険制度で1000万円とその利息までは保護される。だが、電子マネーを扱う業界には、そうした制度が、つい最近まで整備されていなかった。
「ペイペイの不正利用事件の際、補償について規約に明記されていないことが問題となりました。7payのときも補償について明記されていませんでしたが、あれだけのニュースになったことで、業者は補償せざるを得なくなりました。
こうした過去の反省を踏まえて、現在、大手電子マネーの多くは『〇日以内に業者と警察に報告すること』で、補償に応じています」(菊地氏)
先述したように、電子マネーサービスを提供しているのは「資金移動業者」。2020年12月31日現在、金融庁に登録されている資金移動業者は、80社ある。その一覧はウェブサイトで確認できるが、誰もが知っている大企業から、聞いたこともないような業者まで並んでいる。
「基本的に資金移動業は免許制ですので、国の審査をクリアして登録されています。ですから、無名だから危険だということではありません。しかし、不正利用が起きた場合の補償が明記されていなかったり、補償の上限が決まっていたりする業者もあります。
また、業者が破綻したときに補償をどうするかなどについても課題が残ります。実際に電子マネーでの給与受け取りが始まる前には、条件が定められると考えられますが、現状では不正利用があっても、『規約に書いていないから補償はできません』と言われたら、どうしようもありません。開始時には、補償制度をきちんと確認しましょう」(菊地氏)
給料が全額消えても、補償はゼローー。そんな電子マネーは、いくら便利でも怖くて使えない!
(週刊FLASH 2021年2月23日号)