最年少記録を次々と更新し、2020年はついにタイトルを獲得した藤井聡太二冠。現在18歳の若さで、棋聖と王位の2つのタイトルを保持している。
最年少記録を次々と更新していく藤井聡太二冠の活躍は華々しいが、若い世代の棋士たちも台頭してきている。
【関連記事:藤井聡太七段に屋敷九段が忠告「タイトルを獲った後が地獄」】
新人王戦を2回優勝している増田康宏六段(23)は、早くから才能を高く評価され、さらなる覚醒が期待される。また、佐々木大地五段(25)は、第45期の棋王戦挑戦者決定戦に進出するなど、毎年好成績を挙げている。
今回は、彼らの師匠に、弟子たちの素顔と将来性を語ってもらった。藤井二冠の師匠である杉本昌隆八段、増田六段の師匠・森下卓九段、佐々木五段の師匠・深浦康市九段の3氏による特別鼎談をお届けする。
――藤井二冠は最年少でタイトルを獲得しましたが、先生方から見て、これは早かったでしょうか? 遅かったでしょうか?
森下「私は時間がかかったと思います。まず、2016年3月に藤井君が三段に上がったときに、『君は本来ならもう四段に上がっていなければいけない』と言いました。三段への昇段がわずかに遅れたことで、三段リーグの開幕(4月、10月)に間に合わず、次の期を半年、待つことになった」
杉本「ギリギリで間に合わなかったんです」
森下「そうなんです、そこで間に合っていれば運と勢いで、中学1年で四段昇段ということがあり得たと思ったんです。そこで順位戦への参加が1年遅れている。さらに、2018年度のC級1組順位戦で9勝1敗ながら、次点で上がれなかった。彼は本来なら今はA級でやっていなければダメだったんです」
杉本「うーん、私は藤井は運と勢いはないタイプだと思います」
一同「(騒然)そうなんですか!?」
杉本「運がいいタイプではあまり……。運がよかったら三段リーグに間に合っていますよね。順位戦も“頭ハネ”(同成績で並んだ場合に、順位下位の棋士が昇級を逃すこと)はなかったんじゃないかな? これから出るかもしれませんけど、現時点ではあまりないと思いますよ」
森下「なるほど……。それでこの結果ならば、すごいですよねえ」
杉本「彼はすごい逆転勝ちって、あまりないですよね。序盤が上手いというのもあるのですけど、理詰めで勝っていくのが多い。個性の強い若手がベテランに理解できない作戦で勝ち上がっていくというのはあるのですけど、藤井二冠の将棋はむしろ理解しやすいんです。だから、対戦相手の一番いいものを引き出していく。それで勝ち上がっていくのは、相当に大変なことだと思います」
深浦「確かに藤井さんに負けたときは納得する負け方ですよね。これはもうしょうがないと。そういう意味では、運や勢いというのは藤井二冠には一番かけ離れた言葉かもしれません」
杉本「読み合いで正面からぶつかってきて、負けた相手が『向こうのほうが上手だった』という気持ちになる」
森下「確かに」
杉本「子供のころは、もうちょっとアクロバティックな将棋を指していました。あんな将棋を意識的にやっていれば、タイトルに挑戦するのがもう少し早かったかもしれない。今のオーソドックスな王道のスタイルでは、勢いをつけるのは大変だと思うので。
深浦「何か転機があったのですか? 奨励会に入って棋士らしい将棋になってきたのは」
杉本「そうですね、だんだん渋くなってきたというか。奨励会に入ったときは、かなり受けもしっかりしていた気がしますので。やっぱり何か思ったんじゃないですかね」
深浦「それでも私が予想していたよりも、早くタイトルを獲った印象です。20歳か21歳ごろかと思っていました。というのは、29連勝したときのライバルたち、佐々木勇気君(七段)や増田康宏君、近藤誠也君(七段)らが立ちはだかると思っていたんです。でも彼らが食い止める前に、藤井君のステージは一気に上がってしまいました」
■安定感が増した増田六段、勝率が高い佐々木五段
――森下先生のお弟子の増田康宏六段、深浦先生のお弟子の佐々木大地五段についてもお聞きしたいと思います。
森下「増田は、はっきり言ってこの1年半くらいでかなり強くなった気がします。もともと桁違いに強かったのですが、まだ頑張れる将棋を『どうしてここで投げるんだ?』というのが結構ありました。でも、最近は安定感がグッと増しました。若手の層が渋滞しているといわれますが、その中からいよいよ抜け出ようという感じになってきたんじゃないかと。ちょっと、私のひいき目かもしれませんが」
――中継の解説などを聞いていても、雰囲気が大人になられた印象です。
森下「そうなんです。以前は『どうして余計なことを言うんだ』と思っていました」
一同(笑)
深浦「『師弟 棋士たち 魂の伝承』を読み返したんですけど、増田君は際立っておもしろいですね」
――佐々木大地五段についてもお願いします。
深浦「藤井さんと増田さんの後で、佐々木について話すのはちょっと恥ずかしいんですけど。佐々木は勝率は高いんですが、なかなか順位戦で昇級できないですし、棋戦でも結果(優勝や挑戦)を出せていない。最近、会う機会を作って、ちょっと発破をかけました。『現状に少しでも満足していたら、ますます他の人に追いつかれる』ということを伝えました。やはり、師匠にしか言えないことですから」