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樺沢紫苑の「読む!エナジードリンク」エヴァンゲリオンで「心の補完計画」を
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2021.05.17 06:00 最終更新日:2021.05.17 06:00
■『エヴァンゲリオン』ついに、完結!
1995年にテレビ東京系で放送されたテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』。その後、映画『劇場版』の3作品、『新劇場版』の3作品を経て、今年3月8日、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:II』(以下、本作)が公開。26年の月日をかけて、『エヴァンゲリオン』シリーズ(以下、エヴァ)が、ついに完結しました!
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斬新な映像、謎の多いストーリー、ディープな人物描写など、エヴァは日本のアニメ史に残る傑出したシリーズであり、これほど語りがいのある作品もそうそう存在しません。
映画ファン、アニメファンの一人として、この歴史的瞬間を劇場で体験できたことをたいへん嬉しく思います。
すでに公開から2カ月がたち、ネット上や雑誌にも謎の考察が多数見られるようになった今、2回連続で、エヴァについて、精神科医の立場で心理学的な視点から語ってみたいと思います。
■「父性」と「母性」
心理学には「父性」と「母性」という考え方があります。「父性」とは「切る」「断ち切る」性質。厳しさ、規律、ルールを守る、規範を示す、白黒つける、きちんと責任をとる。これらが、父性的な行動です。
「母性」とは、「包み込む」「受け入れる」性質。寛容さ、優しさ、温かさ、すべてをそのまま受け入れる、許容する。これら無条件の愛や信頼が、母性的な行動です。
たとえば、子供が成長していくためには、父性的な厳しさと母性的な優しさの両方が必要です。
しかし、「厳しさ」が強すぎると萎縮した子供となり、「優しさ」が強すぎると、「甘え」の強い、自立できない子供になります。父性と母性のバランスが重要なのです。
こうした、「父性」と「母性」という考え方は、人間を観察するうえで、そして映画やアニメを見るうえでも、ものすごく役立ちます。
■前半にちりばめられた「母性」のイメージ
本作で「母性」が重要なカギとなることは、作品前半の「第3村」のシーンからしっかり描かれています。肝っ玉の座ったおばちゃんたちと農作業をするアヤナミレイ(仮称)。よそ者であるレイを、おばちゃんたちは圧倒的な寛容さで受け入れます。
そして、出産を控える妊婦、妊娠している猫、赤ん坊に母乳を与える母親、母親を慕う子供、家族で囲む食卓……。そこでは、母性をイメージさせる描写が続きます。
そこから伝わってくるのは、母性こそが「安定」「安心」「幸せ」の基盤であるということや、たっぷりの「母性愛」で子供を養育することの大切さです。
それこそが、「幸せ」そのものではないかといわんばかりです。
■ゲンドウが望んだ「ユイ」=「母性」
では、主人公の碇シンジやその父親である碇ゲンドウは、何を望んでいたのか? それは、作品の最後で具体的なセリフとともに描かれています。
「父さんは何を望むの?」と語りかけるシンジ。ゲンドウは、「ユイと私が再び会える安らぎの世界」と答えます。ゲンドウが求めていたのは、妻・ユイとの再会でした。
「孤独」な青春時代を過ごしてきたゲンドウは、ユイと出会い、彼女にありのままの自分を受け入れてもらうことで、救いを得ます。
しかし、死別によってユイを失ったゲンドウは絶望から人類補完計画に傾倒していきます。
ゲンドウは、ユイの愛が欲しかった(取り戻したかった)。その愛とは、孤独なゲンドウを無条件に受け入れる、許容する、寛容する、認める愛=母性です。
ここからわかるのは、ユイは、きわめて「母性」的な存在ということです。「母性」の象徴といってもいいでしょう。心理学的に見れば、ゲンドウが求めたものは、「ユイ」=「母性」であり、「自分を承認、受容してくれる存在」だったのです。