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樺沢紫苑の「読む!エナジードリンク」エヴァンゲリオンで「心の補完計画」を

ライフ・マネー 投稿日:2021.05.17 06:00FLASH編集部

樺沢紫苑の「読む!エナジードリンク」エヴァンゲリオンで「心の補完計画」を

父と子、母と子の関係は…

 

 本作では、初号機に乗ったシンジと、13号機に乗ったゲンドウが、「ミサトの部屋」で対決します。間に「鏡」でも置かれたように同じ動きをする、初号機と13号機。

 

 そう、ゲンドウとシンジは、互いに鏡像のような存在なのです。シンジが求めていたのは、父・ゲンドウに認められること。だから、本当はエヴァに乗りたくない、父と闘いたくはない……。

 

 そんな葛藤に猛烈に悩まされていた。シンジが求めていたのは、ゲンドウとまったく同じ「承認」であり「受容」(ただし父親からの)だったのです。

 

 その直後のシーンでは、エヴァの重要な登場人物である式波・アスカ・ラングレーの心象が映像化されています。

 

「孤独が苦しくてエヴァに乗っていた」

 

「私をほめて、私を認めて、私に居場所を与えて。ほんとは寂しい。ほんとはただ頭をなでてほしかっただけなの」

 

 彼女が心の底から求めていたのは、「孤独からの脱出」と「無条件の承認・受容」。ゲンドウとシンジが求めていたものとまったく同じではないですか!

 

「承認」「受容」「つながり」「愛」「安らぎ」……。それを心理学では、「母性愛」とひと言で表現します。

 

 さらに、息子シンジと対峙するゲンドウは言います。

 

「そうか……そこにいたのかユイ」

 

 そして、その後にシンジも言います。

 

「そっか。このときのためにずっと僕の中にいたんだね、母さん」

 

「シンジの中にユイがいた」とは、どういう意味なのでしょう?

 

「ユイ」=「圧倒的な母性」ですから、シンジの中に、圧倒的な母性が目覚めたということ。それは、ユイの「思い」をシンジが受け継いだともいえます。

 

 そして「そうか……そこにいたのかユイ」は、ゲンドウがシンジの中に、ユイと共通する圧倒的な母性を感じ取った、ということを意味します。

 

 ゲンドウが計画していたアディショナルインパクトは、「第3の槍」によって阻止されてしまいますが、ゲンドウに悔しがる様子はまったく見られません。むしろ、その口調は穏やかといえます。

 

 ゲンドウのアディショナルインパクトの目的は、「ユイとの再会」=「母性に受け入れられること」。シンジの中の「ユイ」(圧倒的な母性)に癒されたゲンドウは、すでに目的を達成し、心の安息を獲得したのでしょう。

 

■誰もが持っている「受け入れられたい」欲求

 

 自分のことを無条件に受け入れてくれる人が、唯(ユイ)一、つまり一人でもいれば人は幸せになれる。でも、その一人がなかなか見つからない。だから、みんな苦労するのです。

 

 唯一の存在を求めて、もがく……。誰もが苦しんでいるのなら、お互いに認め合えばいいのに。お互いに助け合えばいいのに。

 

 そう、最後にシンジはその境地に達するのです。自分に厳しくしていた父を受け入れ、父から最後に「すまなかった、シンジ」と謝罪の言葉を告げられます。

 

 アスカも別の登場人物である相田ケンスケから「アスカはアスカだ。それだけで十分さ」と言われ、存在を無条件に全肯定されます。その瞬間、アスカの魂は救済されるのです。

 

 私たちはお互いに足りない部分を補い合えば、幸せになれるのです、誰でも。それこそが、庵野秀明監督が描きたかった「心の補完計画」ではなかったかと。

 

 人とうまくつながれない、人から愛されない、受け入れられない……。「孤独」の問題で悩んでいる人は非常に多いでしょう。その明確な対処法を、本作は私たちに教えてくれています。自分の弱さを認める、自分から心を開く、自分から相手を認めて受け入れていけばいい、と。

 

 エヴァのある世界(戦い、格闘し、誹謗中傷し合い、拒絶する世界)ではなく、エヴァのない世界(つながり、愛し合い、助け合い、支え合い、互いを受け入れる世界)を作ろう。これが、本作の最後のメッセージです。シンジ、レイ、アスカのような特殊な能力を持たずとも、私たち一人ひとりの力でそれは実現できるはずです。

 

 

かばさわ・しおん
樺沢心理学研究所代表。1965年、北海道札幌市生まれ。札幌医科大学医学部卒。YouTubeチャンネル「樺沢紫苑の樺チャンネル」やメルマガで、累計50万人以上に精神医学や心理学、脳科学の知識・情報をわかりやすく伝える、「日本一アウトプットする精神科医」として活動

 

イラスト・浜本ひろし

 

(週刊FLASH 2021年5月25日号)

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