■「3」が強調される理由
ところで、本作を見ていくうちに、あることに気づかされます。それは「3」という数字が繰り返し登場することです。それを踏まえて本作をひと言で説明するなら、次のようになるでしょう。
『破』で「ニアサード(3rd)インパクト」という大災害を引き起こした「第3の少年」(碇シンジ)が「第3村」というコミュニティで癒やされ、「第3の槍」(ガイウスの槍)を使って世界に平和をもたらし、「第3の女性パイロット」(マリ)と結ばれる話、であると。
そして人類に敵対する「使徒」の殲滅を図る特務機関「ネルフ」の本部が置かれているのは、「第3新東京市」でした。
キリスト教的象徴が多数ちりばめられている『エヴァンゲリオン』シリーズですから、「3」はキリスト教的な「三位一体」を象徴しているのでしょう。それに加えて、「第3の選択」の重要性が、本作の随所で示唆されているように思います。
■挑戦を恐れる人の思考
上司であるあなたが、部下に新しい仕事をまかせようとして、「自分には無理です」「失敗するのが嫌だからやりません」と言って断わられたことはありませんか?
こうした挑戦を恐れる人の場合、挑戦の結果を「成功」か「失敗」かの二者択一でしか考えられない傾向があります。ちょっとでもうまくいかなければ、すべて「失敗」と考えてしまい、「だったら挑戦するのはやめとこう」となるわけです。
しかし、何かにチャレンジして「大成功」することはきわめて稀なことです。同じく「大失敗」することも珍しいことで、だいたい70〜80点くらい、つまり「普通」の結果で終わる場合が多いのです。しかし、どういうわけか「普通」「中間」「それ以外の可能性(第3の可能性)」を想定できない人が多いのです。
■「第3の選択」で人生は楽になる
メンタル疾患になりやすい性格として、「二分思考」というものがあります。別名「0-100(ゼロヒャク)思考」ともいいます。そういう思考の持ち主は、物事を「0か100か」「成功か失敗か」「○か×か」「イエスかノーか」でしか考えられない。
だから「大成功」以外はみな失敗。これでは毎日が失敗の連続、つらいことの多い人生になってしまう。「うつ病」になってもおかしくありません。
本作に話を戻すと、エヴァに「乗る/乗らない」の二分思考にとらわれていた碇シンジは、前半で「うつ状態」に陥りました。前作まで「父親に認められるか/認められないか」の同じく二分思考にとらわれていたシンジでしたが、本作では「仲間を救うためにエヴァに乗る」という「第3の選択」を受け入れていくのです。
前回で父性と母性について述べましたが、物事に白黒をつけるのが父性、グレーや中間を認め、結果をすべて受け入れるのが母性でした。
父性に従って物事に白黒をつけようとすればするほど、人は苦しくなっていきます。「0-100思考」にとらわれずに生きていく。常に「第3の可能性」があることを知っておく。その意味で、こうした生き方・考え方は、母性に基づいたものといえます。
母性に基づいて考えると、生きるのがとても楽になります。挑戦したがらない部下に、あなたが男女のどちらであるかに関係なく、母性を示せば、部下は二分思考から逃れて、チャレンジをする気になるでしょう。
今回の話をまとめると、
(1)誰かの成長を期待するときは、「オキシトシン的承認」を心がける
(2)二分思考にとらわれている人には、母性に基づいた「第3の可能性」の存在を示してあげる
の2つになります。このことを、『エヴァンゲリオン』シリーズが教えてくれました。
映画というのは、たんなるエンタメ(娯楽)ではありません。そこには、人間の「人生」や「生きざま」が凝縮されています。映画を心理学的に観察していくことで、「失敗から立ち直るヒント」や「幸せに生きるヒント」が得られるのです。
かばさわ・しおん
樺沢心理学研究所代表。1965年、北海道札幌市生まれ。札幌医科大学医学部卒。YouTubeチャンネル「樺沢紫苑の樺チャンネル」やメルマガで、累計50万人以上に精神医学や心理学、脳科学の知識・情報をわかりやすく伝える、「日本一アウトプットする精神科医」として活動
イラスト・浜本ひろし
(週刊FLASH 2021年6月1日号)