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実験で判明!インスタントラーメンはお湯を入れてから5分30秒以内に食べろ!
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2021.06.06 16:00 最終更新日:2021.06.25 12:17
いつでもどこでもすぐに食べられるラーメンとして、インスタントラーメンが誕生したのは1958年、日清食品の創業者である安藤百福の手によるという話はよく知られている。
NHKの連続テレビ小説に取り上げられたことからもわかるように、日本人とインスタントラーメンは深い仲である。
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2018年度のデータを見てみると、年間のインスタントラーメンの1人あたりの消費量は45食で、世界第6位である(1位は韓国の74食)。
安藤氏は「いつでもどこでもすぐに食べられるラーメン」を作るためにさまざまな工夫をしたわけであるが、その中で最も重要な発見は、麺から水分を取り除くために、蒸した麺を油で揚げることだった。これを「瞬間油熱乾燥法」という。
麺に水分が残っていると腐敗してしまうのだが、これを避けることができる画期的な発明だった。
腐敗を防ぐための水含有量は、『インスタントラーメンのすべて』(日本食糧新聞社)によると、無塩の麺の場合14.9%、加塩5%の場合16.2%がボーダーであるという(塩分が多いとそれだけ腐敗しにくいということですね。漬物と一緒です)。
麺を高温の油の中に入れると、瞬時に水分が麺からはじき出されて、スナック菓子のような軽さの麺が出来上がる。この時点で水含有量は2~6%となるので腐敗の心配がなくなる。
そしてこの油で揚げる工程の重要なところは、揚げることによって押し出された水の痕跡として、麺に細かい無数の穴ができる点にある。
お湯を注ぐ際にその穴を通じて水分が浸透して、短時間に麺が柔らかくなるという、インスタントラーメンには必要不可欠な性質がもたらされるのだ。
インスタントラーメンの麺の拡大写真を見れば、たしかに表面に微細な穴があいている。一方、ヨーロッパの即席麺とでもいうべきパスタには、このような穴があいておらずつるりとしている。一般的なインスタントラーメンと同様、パスタも小麦粉から作られていて、両者の違いは小麦粉の種類もあるが、大きな違いは油で揚げているかいないかの差であろう。
したがってパスタは茹でるのにおおむね10分程度の時間を要する。中には5分で茹で上がる早茹でパスタという製品があるが、これはパスタに切れ込みがあって、お湯との接触面積を増やしてお湯を吸いやすくするという工夫がされている。
インスタントラーメンを作る際、お湯につけておくだけで麺が柔らかくなるための秘訣は、この微細な穴にある。それでは、お湯が浸透した麺の中では何が起こっているのだろうか。
近年、グルテンフリーという言葉がよく聞かれたりする。グルテンを含まない食品は、小麦アレルギーや、小麦の消化不良などを改善するために取り入れられてきた。
グルテンは、小麦に含まれる「グリアジン」と「グルテニン」という名前は似ているが性質が全く異なる2つの物質によって構成されている。
グリアジンは弾力(元に戻ろうとする力)は弱いが伸びやすく、グルテニンは弾力は強いが伸びにくい。これら2つが結びつくことによって、適度に弾力がありながら伸びやすい性質を持つグルテンができる。
2008年1月6日に中京テレビの『ラブラボ!』という番組で「ラーメン」にまつわる実験が放映された。この実験では、できたてのラーメン(麺の長さ30cm)は、できてから何分後にどれだけ伸びるかを調べていた。
2分30秒後に2cm、5分後にまた2cm、そして10分後にさらに1cm伸びていること、すなわち10分たっても麺は伸びようとしていたことと、伸びるスピードは10分経過した頃には鈍化するということがわかったようだった。
番組ではこの現象の説明として、長時間スープにつかることで麺のグルテンの働きが弱くなり(グルテンが溶けるわけではなく、水分子がグルテンの分子と分子の間に入っていくイメージに近い)、お湯を吸うようになるという。そうなると麺にコシがなくなり、食味が低下するのだという。
インスタントラーメンの麺にお湯を加え、時間が経過することによって味が低下する要因はグルテンの働きが弱くなるため、という理屈はわかった。
では、いったい何分ほどで、麺の味が悪くなるのだろうか? それを調べるには、実際に実験して食べてみなければわからない。そこで僕は次のような実験を考えた。
ごく一般的なカップラーメン(日清食品製)を対象にして、お湯を入れてから3分30秒、4分、4分30秒……というように30秒ごとに6分30秒まで待った場合の、麺の美味しさについて、私の主観だけであるが「麺にコシがあるか」「麺に味があるか」「具材の食感」を総合して5段階で評価した。味の評価だけでは定量的ではないので、麺の重さの変化も記録した。
さっそく結果を見てみよう。お湯を入れてから時間が経過するにつれ、麺とかやくの質量(吸水量)は重くなっている。これは予想された通りで、麺とかやくがお湯を吸っているからである。面白いのは、5分30秒ぐらいまでグラフの傾きは直線的で、「お湯を順調に吸い続けている」ことがわかる。
すなわち待てば待つほど、5分30秒くらいまでは、どんどん麺とかやくの状態は変わってしまうということである。中京テレビの「ラーメン」の企画で判明した、「5分たってもほぼ同じペースで麺が伸び続けた」とも矛盾しない。
変化が現れるのは、6分以降である。6分を超えると、お湯を吸うペースが遅くなり、見た目にも麺が膨らんでくる。おそらく麺が水分を含むことができる限界に達しているのではないだろうか。
ちなみに7分経過時には、お湯(スープ)が見えなくなり、麺の幅が広がり、明らかに食べる時期を逸してしまった感がある。
さて6分というと、ちゃんとお湯を入れて3分待った場合の「食べ終わり」の頃である(僕の場合。ネットで調べてみても、同じサイズのカップラーメンの完食までにかかる時間は約3分であるようだ)。このあたりまで計算しているとすると、インスタントラーメンの製造会社はすごいと言わざるをえない。
以上のことからして、インスタントラーメンは、お湯を入れて3分後から、できる限り5分30秒までの間に箸をつけるというのが理想的であると考えられるのだ。
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以上、松尾佑一氏の新刊『理系研究者の「実験メシ」科学の力で解決!食にまつわる疑問』(光文社新書)をもとに再構成しました。
ふとした瞬間に湧き上がる食に関する様々な疑問に、大学教員が体当たりで挑みます。
●『理系研究者の「実験メシ」』詳細はこちら