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ストレスから逃れる2つの危機回避方法…現代人が陥りがちな「凍りつきモード」とは
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2021.08.19 11:00 最終更新日:2021.08.19 11:00
自律神経の基本的な考え方は、覚醒時や活動時には「交感神経」が優位になり、リラックスしている時や睡眠時には「副交感神経」が優位になるというものです。胃腸は、リラックスモードの際に機能して、ストレスがかかって交感神経モードになると動きが抑制されます。
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野生動物にとっては、ライオンやチーターが突然襲ってくる状況こそがストレスで、危機回避のために、戦うか逃げるか(=闘争・逃走モード)となり、交感神経が活発になります。
現代人にとっては、日々の妻の小言であったり、毎晩の夫のいびきの熱唱であったり、崩れそうな書類の山であったり、押し寄せるメールであったり、ハイスペックすぎて扱いきれぬ電子機器であったり……がストレスの素となります。
これらすべてが、ライオンやチーターの代わりに、自分の存在を脅かす危機として脳内で認定されるため、「まずい! 命を守らなければ!」という野性のアラートが鳴り響き、ストレスモードの身体にスイッチしてしまいます。
この交感神経系の危機回避モードでは、胃腸の動きは抑制されますから、食欲がなくなり、便秘傾向になります。これが、一般論としての自律神経による危機回避モードの話です。
こじれていない人は、少々このモードになっても、寝たり、気分転換をするなどして、もとに戻ることができます。
しかし、続きがあります。じつは、人の危機回避方法は、これだけではないことが分かってきました。ストレスが慢性化し、トラウマレベルにこじれた人の場合です。
それが「凍りつきモード」で、フリーズしてしまう状態です。副交感神経による危機回避です。
BBC制作の動物番組などで、敵に襲われるとフリーズする爬虫類を見たことがないでしょうか? もしくは、死んだふりをするオポッサム(南北アメリカ大陸に生息する有袋類)の擬死行動。
「闘争・逃走モード」は、環境と闘い、環境から逃げ、環境を変化させる力があります。それに対して、こちらの「凍りつきモード」の場合は、いよいよ逃げられない、どうしようもない、変えられない環境の中で生命を維持するには? という苦肉の策で発動します。
「凍りつきモード」になると、むしろ胃腸を動かす副交感神経の働き(正確には背側迷走神経複合体の働き)が過剰になってしまいます。電車の中や重要な会議など、ちょっとした緊張のシーンですぐに下痢をする人は、まさにこのモード。現代人に多い過敏性腸症候群(IBS)です。
慢性的なストレスの蓄積や、毒親のもとに生まれ落ちるなど、逃げられない過酷な環境において、生命維持のためにこのモードが発動されると、心も身体も凍りつき、解離した状態になります。
この新しい自律神経の理論は、ステファン・W・ポージェス博士(米国の行動神経学者)によって提唱されているものです。
さらにそれを補完し、拡大的な考察を行う津田真人氏によると、現代は、「24時間戦えますか!?」というスーパー交感神経モードの高度経済成長の「ストレスの時代」を通り越して、過労死やひきこもりが目を引く「凍りつきモード」の「トラウマの時代」であるとされています。
意欲を失った若者や燃え尽き症候群が増加し、過敏性腸症候群や副腎疲労などの機能性身体症候群や発達障害、様々な心の病気が蔓延していますが、これらはまさに、ストレスを通り越し、自律神経のトラウマ的反応による現象と考えられています。
ミレニアル世代、そしてさらに下のZ世代は、生まれた時からバブルが崩壊し、頑張っても埋まらない理不尽な格差がセットされ、人と人、人と自然とのつながりがなくなった孤独な社会環境から逃れることができません。
さらに、虐待までの極端な例ではなくとも、毒親のもとに育つなど、幼少期にストレスを通り越してフリーズし、「どうせ無理」「頑張っても変わらない」「諦めよう」ということを、意思決定するまでもなく潜在意識に刻み込み、「凍りつきモード」で生きることになります。
怒るでもなく、悲しむでもなく、防衛反応として解離が起こるので、心を麻痺させて何も感じないようにすることで、自分を守ります。無気力・無感動で、主体性が全くない。
『エヴァンゲリオン』のパイロットになる前の、碇シンジくんは、まさにこの状態で、心が膠着していますね。
この2つの危機回避モードの背景にあるのは、安心感の欠如です。「今のこの環境は、安心・安全である」。自律神経がそう判断して、安心・安全モードで稼働することが大切です。
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以上、桐村里紗氏の新刊『腸と森の「土」を育てる 微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)をもとに再構成しました。近年明らかになっている腸内環境と心身の不調との関連について、最新情報を伝えます。
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