(3)メダリストは、なぜパリ五輪を口にするのか?
今回、金メダリストの多くが「次のパリ五輪で連覇します」と口にしていました。また、銀や銅メダリストたちも「次のパリ五輪では金メダルを獲って、雪辱を果たします」と決意を述べていました。もちろん喜びの表情をしていますが、けっして「銅メダルで満足です」とは言わないのです。それはなぜでしょう?
その理由は、満足するとモチベーション物質であるドーパミンが分泌されなくなってしまうからです。
ドーパミンは、目標設定したときと目標達成したときに分泌されます。今、メダルを獲ったばかりなのにもう3年後の話をするのも、ここで目標設定をしておかないと、ドーパミンが出なくなり、頑張る気力が湧かなくなるのがわかっているからです。
だから、目標を達成した瞬間に、次の目標を設定する必要があるのです。本当は「銅メダルでも最高に嬉ししい!」と思っていても、「さらに上を目指す」と口に出して決意表明することで、脳は騙されるのです。
(4)他者貢献、社会貢献が無限のエネルギーを与える
メダリストたちは、感謝の言葉と同時に次の目標を口にしていましたが、この感謝、親切×目標設定、つまりオキシトシン×ドーパミンは、脳にとって最強のコンボといえます。
ドーパミンは「もっともっと」の物質ですが、その効果は逓減し(次第に減じ)ていきます。だから目標を達成した人が、次に同じレベルの目標を設定すると、脳内でドーパミンが分泌されなくなってしまいます。
過去、金メダリストのなかには「燃え尽き」状態となり、スランプに陥ってそのまま引退する選手もいました。そうなるのも、金メダル(世界一)以上の目標を設定しづらいからです。
しかし、すごいことに、オキシトシンにはドーパミンの逓減効果を抑制する働きがあります。「人のために行動」して得られる喜び(オキシトシン的喜び)は、逓減しないからです。
(自分のために)「メダルを獲る」ことを目標にすると、モチベーションは生じにくい。「チームメイトのため」「応援してくれるファンのため」「自分が活躍することで、この競技をもっと広めたい」など「他者貢献」「社会貢献」を目標にすると、モチベーションは大きくなり、はるかに持続しやすいのです。
感謝する人が成功する。これは、五輪に限らず、ビジネスや人間関係においても同じです。「自分のため」「自分だけよければ」と思う人は、他人からの援助が得られないだけではなく、自分のモチベーションまで続かなくなってしまいます。
「世のため」「人のため」に動くことは、非常に難しく思えますが、他者貢献、社会貢献を行動の軸にすると、多くの人から応援が得られ、自分自身にもやる気、生きがい、幸福感が満ちあふれます。そのことは、自分でやってみればよくわかります。
他者貢献、社会貢献、またボランティア活動によってオキシトシンが分泌され、幸せになる。あなたも、そしてまわりの人も。
かばさわ・しおん
樺沢心理学研究所代表。1965年、北海道札幌市生まれ。札幌医科大学医学部卒。YouTubeチャンネル「樺沢紫苑の樺チャンネル」やメルマガで、累計50万人以上に精神医学や心理学、脳科学の知識・情報をわかりやすく伝える、「日本一アウトプットする精神科医」として活動
写真・福田ヨシツグ イラスト・浜本ひろし
(週刊FLASH 2021年8月31日号)