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田舎暮らし希望者が激増…コロナ禍で進んだ「孤独」を楽しむ生き方

ライフ・マネー 投稿日:2021.08.24 11:00FLASH編集部

田舎暮らし希望者が激増…コロナ禍で進んだ「孤独」を楽しむ生き方

 

 現在、田舎志向の象徴の一つとなっているのが、2018年10月からテレビ朝日系で放映されている「ポツンと一軒家」という番組である。

 

 世間から隔絶された日本各地の僻地にポツンと建つ一軒家を衛星画像で探し出し、そこで暮らしている人たちを訪ね歩く。チャンネルの多様化や録画・ネットの映像配信の普及などによって、「視聴率10%超えなら大成功」と言われる放送業界において、同番組はつねに20%に肉薄する視聴率を稼いできた。

 

 

 新型コロナウイルスの蔓延が深刻化した2020年の3月15日には、実に22.2%の高視聴率(ビデオリサーチ調査、関東地区)も弾き出している。

 

 なぜ、同番組がこれほどまで人びとの関心を呼ぶのか。

 

「群れることへのアンチテーゼが、多くの人の意識に芽生えたからだと思います」

 

 と、催眠療法の第一人者で、公認心理師の国家資格を持つ米倉一哉さん(日本催眠心理研究所所長)は分析する。

 

「意識的か無意識的かを問わず、人というのは自分のなかの淋しさもあって、人と繋がり、集まろうとします。ツイッターやフェイスブックなどSNSの爆発的な普及は、それをいかにも象徴しているでしょう。ところが、多くの人と繋がるということは、ある種の弊害も生むのです。つまり、『縛られている』『監視されている』という感覚です。

 

 実際、書き込みや発言に対するバッシングは後を絶ちませんし、いくら『イイネ』をもらったとしても、そうした窮屈な感覚はほとんどの場合、潜在的に消えることはありません。すると、今度は煩わしさや鬱陶しさを覚えるようになる。いまのネット社会において、多くの人たちがそうした煩わしさをどこかで感じてきたのだと思いますよ。

 

 ところが、その煩わしさから解放されて生きている人がいるということが、テレビ番組や雑誌などを通じてわかってきた。彼らはなぜ、ポツンと淋しい僻地に暮らしているのか。いったいどんな気持ちで毎日を生きているのか。そういった興味が多くの人のなかで出てきたのでしょう。裏返せば、それは多くの人びとが潜在的に抱えてきた『解放されたい』という欲求を物語っています。

 

 これまでは人と繋がることが良しとされ、多くの人と一緒になることが善とされる価値観が続いてきました。それによって、逆に人びとが傷つけ合ってきたという側面も否定できません。そしていま、その価値観が崩壊しかけているのだと思います」

 

 米倉さんによると、その価値観の崩壊に、良くも悪くも大きく関与したのが、新型コロナウイルスの蔓延ではないかという。多くの尊い命が失われ、深刻な経済的困窮を生んだ一方で、それを機に多くの人が群れることを控え、自分なりのスタンスを重視する方向へと導かれたのではないか、と。

 

 そして、それは人類が連綿と繰り返してきた集結と離散のリズムに他ならない。

 

 たとえば、太古の狩猟時代、人々は個や少数での行動を常とした。農耕時代に入ると、村社会が生まれ、その集団化が肥大した結果、やがて人々が群れ集う都市文化が誕生した。

 

 そして、今度はその群れ集う社会のなかから、個の尊重を求める者たちが、一人二人と離れていき、それが広く伝播していく。こうした「くっついたり離れたりする」人間の歴史において、たしかに現在は「人びとが離れたがっている時代」に突入しつつあるのかもしれない。

 

「その兆候はすでにいくつかありました。一つがダイバーシティ、つまり性別や学歴、障害の有無を問わず、それぞれの特性を活かした人材発掘という、多様性重視の企業が多く誕生したことです。いわば、既存のものに周囲が合わせる社会から、個々の特性に立脚した社会へと変わりつつあることですが、そこにコロナが登場した。それによって、生活スタイルの変化が加速したことは確かだと思いますよ。

 

 たくさんの人が亡くなっていますし、コロナを忌み嫌う人も多いので、軽率なことは言えませんが、なかには逆にストレスを軽減させた人もいることはいるんです。私のクライアントさんのなかにも、『コロナのおかげで、乗りたくもない満員電車に乗らなくて済むようになった』と言う人がいれば、『わざわざ人が蠢く大都市に出る必要がなくなってホッとした』と言う人もいます」

 

 この新型コロナウイルスの蔓延は、田舎暮らしへの潜在的な願望も人びとのなかに喚起させている。

 

 1か月半に及んだ最初の緊急事態宣言が全面解除された2020年5月25日以降、内閣府が1万人を対象にコロナ禍による生活意識や生活行動の変化などについての調査を行った。

 

 それによると、リモートワーク経験者の24.6%が地方移住への関心を高め、64.2%が「仕事より生活を優先させたい」と答えるなど、ライフワークにおける顕著な志向の変化が浮き彫りにされた。

 

 しかも、この傾向は中高年層だけに見られたわけではない。東京23区在住の20歳代の35.4%が地方移住への関心を寄せるなど、若い世代にも顕著な傾向として現れている。

 

「たしかに」と、秩父鉄道・秩父駅の近くで不動産業を営む増田喜彦さん。

 

「最初の緊急事態宣言が解除されるまでの半年間は、田舎物件はほとんど売れませんでしたが、解除されてからというもの田舎暮らしを検討するお客さんがどんどん増えてきました。

 

 つい先日も70歳ぐらいの男性が、反対する奥さんをようやく説得して、都内から一人で秩父地方に引っ越してきました。そのお客さんは『コロナの件もあるからね』と口にした一方で、元々田舎で畑をやりたいという夢を持っていたようです。

 

 また、バブル期こそ山を買うお客さんがいましたが、バブルが弾けてからは山を買う人などほとんどいなくなった。それが、ここにきて30~40歳代を中心に、山そのものの購入を検討するお客さんも目立ってきました。

 

 うちでも最近、50歳ぐらいの男性が飯能の山2000坪を1000万円弱で購入しています。何でもそこにテントを張って、キャンプを自由に楽しみたいとのことでした。今流行りのソロキャンプに触発されたところもあるのでしょうが、こんな山を買って将来どうするのかな?と、仲介した私のほうが心配になるほどで(笑)」

 

 コロナ禍を機に、にわかに広がった田舎暮らしへの志向。米倉さんが指摘した通り、そこに「単なるコロナ対策ではなく、コロナが引き金となった潜在的な願望の表出」が、大きく関与しているのは、おそらく間違いないのだろう。

 

 

 以上、織田淳太郎氏の新刊『「孤独」という生き方 「ありのままの自分」でいることのできる、自分だけの居場所を求めて』(光文社新書)をもとに再構成しました。つながりすぎて疲弊し切ったすべての現代人のための「再生」の書です。

 

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