■「論破」しすぎないことが重要
ここでつけ加えておきたいのは、ひろゆき氏のディベートは、あくまでエンタメだということです。そこでは毒舌芸人や論客を完膚なきまでに論破するのが「おもしろい」わけですが、会社や家庭などにおける実生活では、むしろ「論破」しすぎないことが重要なのです。
なぜなら、先述のように、日本人は事実と感情を分けるのが苦手だからです。それゆえに、論破されたり議論で負けたりすると、「悔しい!」「腹が立つ!」というネガティブな感情を引き起こし、遺恨が生まれてしまうことが多いのです。
ですから、上司の理不尽な要求を圧倒的な正論ではねつけたり、夫婦喧嘩で相手を理論やデータで抑え込んだりするのは、やめたほうがいい。上司からの印象は悪くなり、夫婦喧嘩で相手が逆上することは間違いありません。
自分の意見を述べ、自分の立場を主張することは大切です。しかし、議論や討論に私情を持ち込みがちな日本人は、人間関係を悪化させがちであることも覚えておきましょう。相手に花を持たせて、「わざと負ける」くらいの余裕がある人こそが、真の「勝者」だと思います。
ディベートや討論への関心が高まるのは、歓迎すべきことです。これをきっかけに、会社の会議などの場から「偉い人の顔色をうかがう」「横並び」「忖度」だらけのくだらない空気が消え、データや事実をもとにスマートに議論できる流れが広がることを期待します。
かばさわ・しおん
樺沢心理学研究所代表。1965年、北海道札幌市生まれ。札幌医科大学医学部卒。YouTubeチャンネル「樺沢紫苑の樺チャンネル」やメルマガで、累計50万人以上に精神医学や心理学、脳科学の知識・情報をわかりやすく伝える、「日本一アウトプットする精神科医」として活動
写真・福田ヨシツグ
イラスト・浜本ひろし
(週刊FLASH 2021年10月12日号)