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医師が実名で語った「私のがん体験」ニュースが別世界のような疎外感/平林かおる医師
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2021.11.03 11:00 最終更新日:2022.09.16 20:27
自身の病巣を冷静に診る医師としての顔、ショックで怯える “患者” としての顔――。がんになった医師たちが、その体験を赤裸々に語った。病院や治療法をどう選んだのか、苦しみをどう乗り越えたのか。そして、どんな “がん名医” が彼らを治療したのか!?
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52歳で乳がん(ステージ2)になった栃木県立がんセンター臨床検査部病理診断科の平林かおる医師(64)。
「肩こりがひどくて、肩や胸をさすっているうちに、米粒大くらいの胸のしこりに気づきました。手術で摘出された乳房切除検体は、5cmくらいの腫瘍でした」
平林かおる医師は、自ら病理診断をおこなった。
「私は病理の専門医なので、自分の組織を見て、すぐにがんだとわかりました。自分のことでありながら、そのときは非常に冷静で、顕微鏡を見せながら主治医や同僚、夫に説明しました」
しかし、帰宅するとテレビのニュースが別世界のことであるかのような疎外感を感じた。
「栃木県医王寺の境内にある樹齢800年の木を眺め、自分はいち生命体にすぎないのだと感じ、がんになった自分を客観視しました」
後ろ向きの気持ちのまま週末を自宅で過ごし、月曜に出勤すると、平林医師は朝会であえてこのように宣言した。
「私の手術検体が出ます。よろしくお願いいたします」
同僚たちにこう言ったことで、前向きに治療に臨もうという気持ちになれたという。
「主治医は、同じ病院の安藤二郎先生でした。ホルモン剤の選択、放射線照射範囲などについて私の希望を十分に理解し、取り入れてくれました」
手術後、3週に一度の抗がん剤治療を4クール。その後、放射線治療をおこなった。
「患者として、医師として納得できる治療でした。一方で、心と体が切り離せないものであり、スピリチュアルケアの必要性も痛感しました」
そう考えた平林医師は、がん患者がほかの患者や医療者に悩みや不安を相談できる「メディカルカフェ」を月一回開催。また、がんを正しく知り、納得して治療を受けられるよう、病理組織を顕微鏡などで見られる「病理外来」もおこなっている。
「がんになったことで、医師として、患者さんの心にこれまで以上に寄り添おうと思うことができました」
【私を救ったがん名医】
栃木県立がんセンター乳腺外科 安藤二郎医師
取材/文・吉澤恵理(医療ジャーナリスト)