(3)ゲーム好きの取り込み
Netflixのライバル会社は、どこだと思いますか? 「Amazonプライム」を提供するAmazonと答える人が多いでしょうが、私はおそらく「ゲーム」業界ではないかと考えています。
仕事から帰宅して、ストレス解消に何かしたい。さあ何をするか? このとき、「動画」を見る人と「ゲーム」をする人で大きく2つに分かれるのではないでしょうか。つまり、後者を動画の世界に取り込めば、飛躍的に視聴者数、登録者数を伸ばすことが可能になります。
その点で、『イカゲーム』は、「ゲーム好き」を意識した作品になっています。まず、タイトルの「イカゲーム」。ゲーム好きの人であれば、とりあえずどんなゲームなのか知りたくなります。
そして、「階段や廊下」「フロントマン」などの、ピクセルアート風のデザインは、あきらかにゲームの世界を実写化したものです。重要なモチーフとなっている○△□のマークも、ゲームのコントローラを意識しているでしょう。
そしてストーリー自体も、各ステージごとに勝者が次のステージに進めるというゲーム的な展開です。そうした、ゲーム好きの人たちが見たくなる工夫、ストーリー展開が、意識的におこなわれているのです。
(4)社会問題をテーマに
『イカゲーム』の特徴のひとつは、韓国における貧富の差、学歴社会の苛烈さ、女性の地位、脱北者など、社会的な問題を多く扱っていることです。結果として、ゲーム好きの20代、30代に限らず、深いテーマ性を求める中高年層の取り込みに成功しています。
これは、『パラサイト 半地下の家族』のモデリングです。韓国内の貧富の差や学歴社会を辛辣に描いた同作は、非英語圏作品で初めて米国のアカデミー作品賞に輝くという栄誉に浴しました。
こうした「韓国の社会問題をリアルに描く」作品が、世界で望まれていることが証明されたわけです。そこから「社会的テーマを盛り込む」ことが、ヒット作品のテンプレートの条件のひとつとして盛り込まれたのでしょう。
日本にはアニメや漫画という、世界に通じる最高のエンタメコンテンツがあります。さらにいうと、世界最高のハイテク技術を有しています。しかし、コンテンツのパワーもハイテク技術も、中国、韓国が日本に追いつきそうな勢いです。
なぜ、こうなってしまったのか? その理由や原因をきちんと分析・考察する必要があります。そこに日本経済を復活させるヒントがあるからです。『イカゲーム』を視聴して、なぜ世界的にヒットしたのかを考えることには大きな意味があるのです。
ただし『イカゲーム』は、人が大勢死ぬなどの残酷な描写が多すぎる点において、万人向けではないことを追記しておきます。
かばさわ・しおん
樺沢心理学研究所代表。1965年、北海道札幌市生まれ。札幌医科大学医学部卒。YouTubeチャンネル「樺沢紫苑の樺チャンネル」やメルマガで、累計60万人以上に精神医学や心理学、脳科学の知識・情報をわかりやすく伝える、「日本一アウトプットする精神科医」として活動
イラスト・浜本ひろし