ライフ・マネー
樺沢紫苑の「読む!エナジードリンク」10代のメンタルが危ない!増える子供の自殺を食い止めるには?
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2021.12.20 06:00 最終更新日:2021.12.20 06:00
今回の記事は映画の話のようで、じつは映画の話ではありません。10代の子供たちが抱える「心の問題」それがきわめて深刻化しているという現状についてお知らせしたいと思います。あなたの子供も危ないかもしれない。ということで「映画にはまったく関心がない」という人も、最後までお読みいただけたら幸いです。
【関連記事:樺沢紫苑の『読む!エナジードリンク』忙しい「師走」を乗り切る時間術~脳を “騙して” みよう】
■自殺×ミュージカルという異色作
現在公開中の映画『ディア・エヴァン・ハンセン』に魂が揺さぶられました。合計10回は涙したでしょうか。私が今年に観た映画の中で、最も泣ける映画となりました。
コミュニケーションが苦手。社会不安障害で精神科に通う17歳の高校生エヴァン・ハンセン。彼は夏休み中に左腕を骨折します。アメリカでは、ギプスに友人たちが「寄せ書き」をする習慣がありますが、友達がいないエヴァンには誰も書いてくれません。
でも一人だけ書いてくれる人が現われました。それは、エヴァンが心寄せるゾーイの兄で、神経質な青年コナー・マーフィーでした。
しかし後日、エヴァンは校長室に呼び出され驚きの知らせを受けます。コナーが自ら命を絶った、と。コナーと最後に会って会話したのが、エヴァン。エヴァンとコナーの接点はほとんどなかったのですが、エヴァンは打ちのめされるコナーの家族を気遣い「コナーの親友」を演じます。その小さな嘘が、大きな騒動へと広がっていきます。
本作は、トニー賞を6部門受賞したブロードウェイ・ミュージカルの映画化。よくこんな作品を作ったものです。アメリカの高校生が抱える「心の危機」そして急増する自殺の問題を、ミュージカルという非常にとっつきやすい形で問題提起しています。
そこに描かれるテーマは深刻ですが、魅力的なストーリーと感動的な楽曲で、圧倒的に引き込まれます。ミュージカルというエンタメ的な「楽しさ」に引きつけられながらも、鋭い人物描写に共感し、泣けるのです。
■10代の5人に1人が精神科受診!?
本作のファーストシーンは、エヴァンが3種類の向精神薬を飲むシーンから始まり、ドキッとさせられます。さらに、劇中に登場する優等生女子のアラナ・ベックは、エヴァンに自らの苦悩を打ち明け「あなたはなんの薬を飲んでいるの?」と聞きます。互いに自分が服用する薬の名前を打ち明け合うというショッキングな場面。さらに、自殺したコナーは「薬物依存症」であり、そのための回復施設に入所していた過去が明かされます。
これを観た日本の観客は「なんて突飛な設定だろう」と思うかもしれません。登場する高校生がことごとく心を病んでいて、そして精神科の薬を飲んでいるのですから。
しかしこれは、大げさな創作などではありません。
まぎれもないアメリカの現実です。10代で精神科のセラピーを受けている人はたくさんいますし、向精神薬を飲むのも当たり前。そして、急増する10代の自殺。
以下は、アメリカの若者たちに関するデータです。
●10代の自殺は、過去10年で56%増加
●10~14歳の自殺率は、日本の3.5倍
●10代でうつ病と診断された人の割合は13%
●20歳までに発達障害と診断される割合は約10%……。
アメリカでは成人の10人に1人が向精神薬を服用しているといいます。またある調査によると、アメリカ人の13%が社会不安障害を患っているとのこと。社会不安障害の多くは10代の思春期に発症します。
10代の「うつ病」と診断された率だけで13%。そこに社会不安障害、発達障害、薬物依存症など種々のメンタル疾患を合算すると軽く20%を超えるのです。アメリカの10代の5人に1人は20歳までに精神科を受診し、治療(薬物療法、カウンセリング)を経験しているというわけです。
アメリカのティーンエイジャーの精神科受診や向精神薬の服用が当たり前になっているという実態。そして、10代に限らず、アメリカでは大人の自殺率も急増しており、大きな社会問題になっているのです。