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元ホームレスが語る眠りやすい都内の路上ランキング2位は荒川河川敷、1位は?

ライフ・マネー 投稿日:2022.02.26 11:00FLASH編集部

元ホームレスが語る眠りやすい都内の路上ランキング2位は荒川河川敷、1位は?

隅田川沿いの高架下。レジャーシートで対抗するも、雨には歯が立たず

 

 2021年夏、東京五輪の開会式からホームレスとして過ごし、そこで出会った人々との63日間の生活を綴った國友公司氏の著書『ルポ路上生活』(KADOKAWA)が話題だ。コロナ禍が続くなか、より一層「明日は我が身」という言葉が現実味を帯びてきたが、もし自分自身がホームレスとなった場合、実際にどこに眠るのがベストなのか。國友氏は、「ホームレスと一括りにしがちですが、じつは場所によってその快適度は大きく変わってくる」と話す。では、同氏が暮らしたなかで、もっとも快適だった場所はどこなのだろうか。以下、國友氏がランキング形式で語ってくれた。

 

 

 当たり前だが、路上生活はつらい。しかし、そのつらさは過ごす場所によって変わるものであり、私たちが想像しているよりもはるかに快適な生活を送っている場合もある。私は63日間のホームレス生活中、新宿、上野、河川敷などをはじめとする都内の6つのエリアを転々としていたが、“暮らしやすさ”の最下位を挙げるとするならば、ダントツで隅田川である。

 

6位 隅田川

 

 日本全国のホームレスの数というのは年々減少傾向にある。厚生労働省の調査によると、たとえば2007年の1万8564人に対し、2021年にその数は3824人にまで減っている。その転機は、リーマンショックで派遣切りに遭った人々の避難所として2008年末に開設された「年越し派遣村」にある。生活保護申請の際のいわゆる「水際対策」が見直され、多くのホームレスが生活保護を受給するようになったのだ。

 

 今現在、隅田川沿いに建てられているホームレスの小屋はせいぜい30軒弱といったところだが、かつては300軒以上の小屋がこの一帯にあり、「東京のガンジス川」と呼ぶ者もいた。私もこの隅田川沿いに小屋でも建てられないものかと訪れてみたのだが、この場所に10年以上住んでいるというホームレスの男性は、気の毒そうに私に話した。

 

「俺の隣は空いているからここに小屋でも建てさせてやりたいけどよ、今から新しい小屋を建てると、すぐに警備員が飛んできて撤去させられちまうんだ。残念だが諦めるしかねえ。昔からずっと住み続けている人たちだけは特別に認められているんだがな。だけど、高架下にダンボールを敷いて寝るくらいなら問題ないから、それでなんとか頑張ってみろ」

 

 隅田川は台東区と墨田区を分けるように流れているが、墨田区側には川に沿うようにして高速道路(首都高速6号向島線)が通っている。夜になるとその高架下に、20人近いホームレスがダンボールやテントを持って集まってくる。私も彼らにならって、高架下にダンボールを敷いてそれなりに快適に眠っていたのだが、ある日、雨が降ると状況が一変した。

 

 雨風をしのげる屋根代わりになると思っていた高架がかなり高い位置にあるため、横から思いっきり雨が降り注いでくるのだ。そして、ここの高速道路は右車線と左車線で構造が分割されており、その間からも雨がガンガン入ってくる。真夏だというのに、私は凍えながら一夜を過ごすことになった。

 

5位 上野駅前

 

 上野駅正面玄関口前にある通路には、夜になると10人ほどのホームレスがダンボールを敷いている。この場所は隅田川とは違い、低い屋根によって雨風をほぼ気にすることなく眠ることができる。しかし、ここには「酔っ払い」「手配師」「ネズミ」などの“敵”が多く存在する。

 

 すぐ近くに交番があるため、暴行を受ける心配はさほどないが、寝ているホームレスに向かって用を足すような酔っ払いがいる。気が大きくなった酔っ払いたちがジャンケンをし、負けた人がホームレスに話しかけるといったゲームを始めることもあった。このうえなく鬱陶しいのだが、それよりもさらに鬱陶しいのが手配師の存在だ。

 

 手配師とは、工事現場や解体現場など肉体労働が求められる現場に労働者を斡旋する人たちを指し、上野エリアでは駅前をウロウロと巡回している。働かずに路上に寝ていると、「こんなところで寝ているろくでもない人生でお前はいいのかよ」と、連日のように声を掛けてくる。だんだんと自分が惨めになり、手配師から逃れるようにこの場所を去りたいと思うようになってくるのだ。

 

 そして、さらに厄介なのがドブネズミである。路上生活を始めて気がついたのだが、ネズミというのは足音や物音を一切立てずに移動することができる。眠っているホームレスの枕元にできた影に、ネズミが入ったきり出てこなくなる光景を何度も目にした。きっと私の枕元でも同じことがおこなわれ、食べ物を漁られていたのだろうと思う。

 

4位 新宿西口地下広場

 

 新宿西口の地下に広がる広場には「ダンボール、テント、寝具類等の生活用品を持ち込み生活すること」「寝そべる、座り込む、しゃがむ、立ち止まること」などと、ホームレスへの禁止事項が書かれた紙が所々に張られている。立ち止まることも許されないのかと警戒してしまうが、実際のところそんなことで注意されることはなく、夜は100人近い“住人”がどこからともなくやって来る。

 

 この場所の素晴らしいところは、どんなに強力な台風が到来しようとも、地下なので絶対に濡れない点だ。朝6時から夜の10時までは横になると警備員が飛んでくるので、日中はどこかで雨宿りをしなくてはいけないが、夜は安心して眠ることができる。

 

 しかし、頭上のライトは24時間煌々と点灯しており、数分に1回退去を命じるアナウンスが流れ、5秒に1回は「ピンポーン」というチャイムが鳴り響くので、慣れた者でないとどうやっても眠りにつくことなどできない。こんなことをしたところでホームレスはいなくならないのだから、もはやただの嫌がらせにすぎない。

 

3位 上野公園

 

 バブル崩壊直後、上野公園には600軒を超すホームレスの小屋が建ち並んでいたというが、この場所も隅田川と同じく、今から小屋を建てることは不可能になっている。代わりにホームレスたちが眠っているのは、東京文化会館の軒下である。森に囲まれているということもあり、ここなら雨風もなんとかしのぐことができるのだ。

 

 上野公園の嬉しいところは週に4回、韓国系キリスト教会が炊き出しを開催している点だ。毎回、牧師による説教を聞かなければならないため、ご飯がもらえるまで2時間は見ておかなければならないが、4回すべてに参加すればそれだけで1週間はなんとか生活できるだけの食料をもらうことができる。

 

 韓国系キリスト教会以外にも炊き出しをおこなっている団体があり、夜に公園で寝ていると弁当や薬を配りに来てくれる。さらにすぐ近くの山谷に行けば、ほぼ毎日何かしらの炊き出しがおこなわれているし、上野公園の中にある国立科学博物館前では月に1回、カレーライスとカレーうどんが食べ放題の炊き出しがある。白いご飯かうどんを選び、その上にカレーをかけてくれるのだ。

 

2位 荒川河川敷

 

 ホームレス生活を始める前の私は、「河川敷に住んでいるホームレスたちはなぜ屋根のない場所にわざわざ住むのだろうか」と疑問に思っていた。どう考えても、高架下や地下広場など雨風をしのげる場所のほうが住みやすいだろうと考えていたのである。

 

 隅田川、上野駅前、新宿西口地下広場、上野公園をはじめ、ほとんどの路上では日中は横になることができない。人通りが減った夜8時ごろにやっとダンボールを敷くことが許され、朝6時ごろにはその場を去り、そこから約14時間もの間、どこかで時間を潰さなければならない。ホームレスにとっては、この時間がとにかく辛い。雨が降ったり、風邪を引いたりしてしまうと、なす術がなくなる。図書館にいれば濡れずにはすむが、外に保管してある荷物などはどうしても濡れてしまい、その後の日常生活に支障をきたす。

 

 しかし河川敷の場合、常に通行人がいるというわけではないからか、24時間そこで生活をしていても追い出されることがない。一部禁止区域となっている場所もあるが、小屋やテントを建ててもすぐに撤去されるということはなく、現に今でも河川敷には自作の小屋で暮らすホームレスたちが何人もいる。

 

 私は8000円のテントを購入し、荒川河川敷に広げて生活をしていたが、路上に敷いたダンボールと比べると、はるかに寝心地がいい。ホームレスにとって、好きなときに好きなだけ横になれるということは、このうえない幸せなのである。台風がやってきたときは、目の前でみるみるうちに増水していく河川に恐怖を覚えたが、雨の日でも快眠生活を送ることができた。ただひとつ難点としては、炊き出しへのアクセスの悪さがある。炊き出しは、基本的に街中でおこなわれているものなのだからだ。

 

1位 東京都庁

 

 意外に思うかもしれないが、都庁という場所はホームレスにとても優しい。都庁下の路上はそのほかの路上とは違い、24時間布団を敷いていようと誰からも注意を受けることがないのだ。しかも、私がここに暮らしていたのは東京五輪の真っ最中である。ダンボールの小屋を建てているホームレスもテントを建てているホームレスも、誰からも咎められることはなく、「五輪によるホームレスの排除」など微塵も感じられなかった。私の隣で暮らしていたホームレスの男性は言う。

 

「僕は2年間このあたりに住んでいるけど、移動を命じられたのは東京マラソンと、今回のセレモニー(聖火リレーの点火セレモニー)だけ。それも2日とか3日とか、一時的なものだし」

 

 この期間、私たちの元にはよく新聞記者やテレビ局の人間が取材にやってきた。みな一様に、五輪に湧く世間と貧困のコントラストを描くことで、政権批判を展開しようとしていたようだが、現場の空気は違う。彼らが「作り出す」ニュースを見るたびに、私は路上で苦笑してしまった。

 

 加えて、都庁の下では週に複数回炊き出しもおこなわれており、同じく週に複数回炊き出しがある代々木公園へのアクセスもよい。ボランティアや一般の人々が、食料を差し入れてくれることも多々ある。そして都庁下の一帯は、庁舎のペデストリアンデッキと頭上の道路で覆われており、雨に濡れる心配もない。

 

 都庁という場所は、路上と河川敷両方の長所を兼ね備えているだけでなく、両方の短所すらも補っている。もし、ホームレスになることがあるとしたら、最初に向かうべき場所は都庁下の一択と言っても過言ではない。

 

( SmartFLASH )

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