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ここがおかしい日本の「糖尿病」治療…医師が説明する従来の糖尿病食「2つの問題点」とは?

写真・AC
■エビデンスのない食事療法を継続してきた日本
日本では、いまも多くの糖尿病の方が苦しんでおられます。医師や栄養士にいわれるとおりに治療し、カロリー制限食を実践するなどしても、合併症を防ぐことができていない現状があります。
米国糖尿病学会の患者教育用の本『Life With Diabetes 2004』によれば、「摂取後直接血糖に影響を与えるのは糖質のみであり、速やかに吸収され、120分以内にほぼ100%血糖に変わる。タンパク質と脂質は直接血糖に影響を与えることはない」とされています。
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これらは、含有エネルギーとは無関係な、三大栄養素の生理学的特質です。日本糖尿病学会は、このことを、医師にも糖尿病患者にも伝えていないのは、いかがなものでしょうか。
また、最新の『糖尿病診療ガイドライン2024』の39頁においても、推奨グレードAで「エネルギー制限食」を推奨していますが、エビデンスは1つもありません。一応、「過体重・肥満を伴う2型糖尿病の血糖コントロールにおいてエネルギー摂取量の制限を推奨する」というコメントはありますが……。
50年以上前に、一部の糖尿病専門医が合意で決めたことを、そのまま継続しているのが現状なのです。エビデンスが1つもない食事療法を推奨するとは、誠に不可思議です。
■従来の糖尿病食の問題点(1)食後高血糖と血糖変動幅増大
従来の糖尿病食(高糖質・カロリー制限・低脂質食)を、糖尿病の人が摂取した場合、食後の高血糖は防げません。
現在、糖尿病患者の動脈硬化のリスク要因として問題とされている、食後高血糖と血糖変動幅増大を引き起こすのは、三大栄養素の中では糖質だけです。糖質を摂取しなければこれらは生じないのですが、いくらカロリー制限をしても、糖質を摂取すれば、必ず、食後高血糖と血糖変動幅増大を生じます。
米国では、医師も看護師も栄養士も患者も、三大栄養素と血糖値に関する生理学的知識を共有しているわけです。
ひるがえって日本では、このような重要な生理学的知識がいっさい教育されていないため、医師も看護師も栄養士も患者も、「糖質だけが血糖値に直接影響を与える」という重要な生理学的事実を知らないのが現状なのです。
■従来の糖尿病食の問題点(2)酸化ストレスリスクを防げない
人体は、酸化反応と抗酸化反応のバランスが取れていると、正常に機能します。酸化反応が抗酸化反応を上回った状態を「酸化ストレス」といいます。
細胞内のエネルギー生産装置「ミトコンドリア」の活動によって、日常的に活性酸素が発生しますが、生体の抗酸化反応で処理しています。
ヒトにおいて、最も一般的な酸化ストレスの発生源は、高血糖です。高血糖によって活性酸素が発生します。そして酸化ストレスが、糖尿病合併症・動脈硬化・老化・がん・アルツハイマー病・パーキンソン病などの元凶とされています。
食後高血糖と血糖変動幅増大が、糖尿病における最大の酸化ストレスリスクなのです。そして糖尿病患者が糖質を摂取すれば、食後高血糖と血糖変動幅増大を必ず生じます。
■米国では20年間で合併症が激減したが、日本では減っていない
米国では、1990年から2010年までの20年間で、糖尿病合併症が激減しましたが、日本では、日本糖尿病学会の2013年の「熊本宣言2013」で、「糖尿病合併症で苦しむ患者さんの数は今なお減少していません」と、明言されました。
2010年(米国)と2013年(日本)ですので、もと(根拠)になるデータの年代は、似たようなものです。医学誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』に2014年4月17日に発表されたデータです。米国では20年間で、糖尿病合併症が激減しています。
(1)急性心筋梗塞: マイナス67.8%
(2)高血糖症による死亡:マイナス64.4%
(3)脳卒中: マイナス52.7%
(4)下肢切断: マイナス51.4%
(5)末期腎不全: マイナス28.3%
米国では、糖質摂取50%で糖尿病を発症し、病院に行けば糖質摂取40%となります。
一方、日本糖尿病学会「第56回日本糖尿病学会年次学術集会」熊本宣言2013の記載が以下です。
「糖尿病合併症で苦しむ患者さんの数は今なお減少していません。(中略)
糖尿病網膜症による失明者は年間3000人以上、
糖尿病腎症による新規透析導入者は年間16000人以上、
糖尿病足病変による下肢切断者が年間3000人以上(後略)」
ここで疑問が出てきます。これらの方々は、医師や栄養士のいうことを聞かずに、薬もまともに内服せずに、暴飲・暴食をしたのでしょうか?
いえいえ、そんなことはありません。ほとんどの方は、医師や栄養士のいうとおりに、つらくとも我慢してカロリー制限食を実践し、酒も飲まず、運動もし、血糖コントロールが徐々に悪くなれば、経口糖尿病治療薬を増やしていき、それでもよくならなければ、インスリン注射を導入して、清く正しく頑張ってきたにもかかわらず、糖尿病腎症、糖尿病網膜症、糖尿病壊疽(えそ)、心筋梗塞、脳卒中……を合併してしまったのです。
日本では、ほとんどの糖尿病患者さんが、糖質摂取比率50~60%(最近では40~60%も)の糖尿病食(カロリー制限・高糖質食)を指導されています。
この高糖質食を糖尿病患者さんが摂取すれば、「食後高血糖、血糖値の乱高下、血糖変動幅増大」を必ず生じます。これでは、糖尿病合併症が、減らないのも当たり前としかいいようがありません。
すなわち、糖尿病患者さんに罪はないのです。罪はひとえに、現行の糖尿病食(カロリー制限・高糖質食)にあるのです。この食事を続ける限りは、かなり運がよくない限り、糖尿病合併症から免れることは至難の業です。糖質摂取比率の差が、米国との合併症の数値の差と考えられるのです。
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以上、江部康二氏の新刊『75歳・超人的健康のヒミツ 「スーパー糖質制限」の実践』(光文社新書)をもとに再構成しました。糖質制限のパイオニア医師が、食事療法の歴史と糖質制限食について詳細に解説します。
●『75歳・超人的健康のヒミツ「スーパー糖質制限」の実践』詳細はこちら