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樺沢紫苑の「読む!エナジードリンク」ロコ・ソラーレに学ぶ「勝負に強くなる5つの法則」
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2022.03.07 06:00 最終更新日:2022.03.07 06:00
北京五輪での日本人選手の活躍には目を見張るものがありましたが、なかでも私がいちばん注目したのは、銀メダルを獲得したカーリング女子「ロコ・ソラーレ」。
私はスポーツの生中継を見ることはあまりないのですが、予選リーグ最終戦からの3試合はテレビ観戦し、夢中になって応援していました。
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ロコ・ソラーレの戦いぶりには、私たちの日ごろの仕事、プレゼンテーションなど緊張する場面にそのまま応用できるノウハウが満載です。
そこで今回はロコ・ソラーレがなぜ大舞台で活躍できたのか、脳科学的・心理学的観点から分析し、勝負に強くなる5つの法則を導き出してみました。
■(1)笑顔で緊張を撃退する
ポジティブな声かけと明るい笑顔でチームの雰囲気を盛り上げ、ナイスショットを連発しながら、チャンスをゲットする。これがロコ・ソラーレの勝ちパターンです。
笑顔という表情は「楽しい」「うまくいっている」状況に対して作られます。
そして表情のコントロールにはセロトニンが影響しています。セロトニンはリラックスとも深く関係している脳内物質ですから、「自然な笑顔が出る」状況は、セロトニンが活性化していて、リラックスしてプレーできる状態。つまり、実力が十分に発揮できる状況が作られている、ということです。
そして不利な状況でこそ、「笑顔」を維持できれば、常に逆転のチャンスが生まれるわけです。
しかし、不利な状況、負けている状況では、不安・恐怖の脳内物質、ノルアドレナリンが分泌されます。ノルアドレナリンの分泌が多くなりすぎると、筋肉に力が入りすぎる、手が震える、頭が真っ白になるなど、緊張状態にのみ込まれます。
そこで、緊張しそうなときは「表情だけでも笑顔」を意識する。そうすると、本来の実力が発揮できる状況が生まれるのです。
■(2)ミスや劣勢を、より多く経験する
今回、カーリングの試合を見ておもしろいと思ったのは、カーリングとは「フィードバックの競技」である、という点。フィードバックとは、アウトプットされた結果に対して修正を加え、すみやかに次の行動に移すことです。
試合では、ストーン(石)を投げた後に、ウェイト(ストーンの滑るスピード)やラインを判断して、スウィープ(擦る)によってストーンの勢い、方向、回転などをコントロールします。ストーンが移動している間にも、選手同士が細かなコミュニケーションをとって、フィードバックを秒単位でおこなっています。
また試合中は、氷の状況が刻一刻と変化していくので、一投ごとに、曲がりやすさ、回転のしやすさといった、「情報」が得られます。それを参考に、「思ったより曲がらなかったから、今度は……」と、次の一投を微調整していく。ここに、フィードバックによる情報戦、頭脳戦のおもしろさがあります。
吉田知那美選手は「私たちの最大のアドバンテージはたくさんのミス、たくさんの劣勢を経験してきたこと」と語りました。これは、とても含蓄のある言葉です。
「ミス」や「劣勢」は失敗ではなく、「貴重な情報」であり「経験」に転化できる。だから、ミスをすることで「弱点」「不十分な点」が明確になる。それを踏まえたうえで、しっかりと修正すればいいのです。
誰でも失敗やミスを犯したくはないもの。しかし「小さなミス」をしないと、修正やフィードバックもできないので、結果としてより大きな失敗につながりかねません。失敗やミスはできるだけ早い段階で経験しておき、それを成功の糧へと変える。これが、勝負に強くなるコツです。
■(3)小さなコミュニケーションを積み上げる
「ロコ・ソラーレの最大の強みはコミュニケーション力」。実況や解説の方が、何度もそう繰り返していました。
カーリングの試合では「ナイスショット!」「ラインはいいよ!」「そだねー!」などの励ましの言葉が視聴者によく聞こえてきます。これは、ほかのスポーツではないことです。
このやり取りのなかで、私がピンときたのは、「○○はどうかな」という言葉です。
試合運びについて、それぞれが状況を踏まえて考えたことを言葉にして検討する。そこに1%でも懸念があれば、声かけによるコミュニケーションによってその心配、不安を消しておく。あるいは、事前に情報共有しているのです。
ビジネスの場合「まあ大丈夫だろう」という自己判断で、同僚や上司に相談しない、ということが多々あるでしょう。
ところが、「悪いこと」が重なって、「ほとんど起きないだろう」と思っていたことが現実化して、大変なことになる。その段階で初めて上司に相談するわけですが、「なぜ、そこまで放置していた」と怒られるのは間違いありません。
振り返って、ロコ・ソラーレの「○○はどうかな」「△△の可能性はあるかな」という問いかけは、素晴らしいコミュニケーションだと思います。
5%でも、1%でも、「ほとんど起きそうにもない」ことでも、言語化するだけで、対応、対処が可能なものになります。加えて危険性に関する情報も共有できるので、本番前にチームの懸念を減らすことができるのです。
大きな失敗は、「うすうす気づいていながら、何もしないで放置する」ことから生じます。些細な懸念や心配も、そのままにしておかず、事前に「言語化」「情報共有」しておく。それだけで、すべてが「想定の範囲」に変わっていくのです。