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映画・ドラマの「倍速視聴」に賛否の声…話題の発端となった著者は「もはや後戻りできない状況」

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2022.05.29 16:00 最終更新日:2022.05.29 16:00

映画・ドラマの「倍速視聴」に賛否の声…話題の発端となった著者は「もはや後戻りできない状況」

 

 最近話題のキーワード「倍速視聴」。映画ドラマを1.5倍速や2倍速で視聴する人が急増しているのだ。10秒スキップ機能も駆使し、短い時間で作品を観る、「タイパ(=タイムパフォーマンス)視聴」をめぐっては、ネット上でもさまざまな議論が交わされている。

 

《倍速視聴? 10秒飛ばし? 笑止。邪道。映像には、セリフの間も音楽もあるし、気持ちよく観られるようにカットの余韻も0.1秒単位で調整されているから、等速でないと制作陣の意図は汲み取れないというのに……》

 

 

 という否定派の意見もあれば、

 

《映画の倍速視聴ですか。その機能がついているなら、手前で買ったソフトや配信動画を倍速で観ようが等速で観ようが客の勝手だと思いますな》

 

《ドラマもアニメも本数増えてるから倍速じゃないと追いきれない》

 

《別に倍速視聴したっていいじゃん。時間が無いんだから。なんで鑑賞の仕方まであれこれ言われなきゃならないのか》

 

 といった肯定派の声も多い。

 

 この話題の発端となったのが、『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』(光文社新書)という本だ。著者・稲田豊史氏に聞いた。

 

――「倍速視聴」に対する批判は少なくないですが、それは視聴者だけのせいでしょうか。メディア側もそう仕向けてきたのでは?

 

 NetflixTVerYouTubeに倍速で視聴できる機能が実装されているのは、視聴者側にそういうニーズがあったからです。NHKプラスも、視聴者の要望に応えるかたちで2021年12月からできるようになりました。視聴者が望めばメディアがそれに対応する、それは当然のこと。

 

 テクノロジーの進化という側面からも、ニワトリと卵の話ではないですが、倍速視聴という技術が開発されればサービス提供側は使い勝手を向上させるという名目で実装しますし、視聴者は便利だから利用する。その両方がどんどん進行して、後戻りできない状況になっているわけです。

 

――これだけ「倍速視聴」が一般化してくると、メディア側も変わらざるを得ないですね。

 

 アベマには以前から「アベマ倍速ニュース」という番組がありますが、最近TBSの『サンデー・ジャポン』で「1.5倍速 “タイパ” ニュース」という企画が始まりました。地上波テレビも変わりつつあるということでしょう。

 

 私の著書を読まれた映画『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督が、先日こんなツイートをされていました。

 

《「これが現実だ。さ、あんたはどうする?」と肩を優しく叩かれた。今なにが起きているのか?その根っこにあるものは何なのか?それを知ることで、漠然とした憤りや不安や危機感が具体的な問題意識に変わった》

 

 映画やドラマの作り方を変えるにせよ変えないにせよ、作り手はそういうお客さんが一定数存在することを、認識せざるを得なくなっていると思います。

 

――稲田さん自身は、倍速視聴するんですか?

 

 会社員時代、仕事のため一晩に何本も映画を観る必要があり、やむをえずやっていました。でも、後からその作品を等速で観たところ、倍速視聴時には作品を全然味わえていなかったことがわかったので、以降やらなくなりました。

 

 そこで気づいたのは、2時間の映画を仮に1時間で観たとしても、それは「1時間得している」のではなく、「1時間もかけて作品を不完全にしか味わえなかった」ということ。あくまで私の感覚ではありますが、倍速で観た方が逆に「タイパ」は悪いんです。

 

――先日、日本テレビ系「金曜ロードショー」で『ローマの休日』が放送されましたが、初めて観たという人たちのツイッターの反応が興味深かったです。「こんなにセリフが少なくても伝わるんだ」という声が多かったですね。

 

 若い方に比較的多いのですが、登場人物が心情をセリフで説明してしまう昨今の映画やドラマやアニメに慣れている人は、セリフのない芝居に触れる機会が少ない。

 

 すると、セリフのないシーンは「情報がない」と判定して、10秒スキップしたり倍速視聴したりする。しかも倍速視聴や10秒スキップは違法でもなんでもなく、各サービスに公式の機能として実装されていますから、なんら非難される筋合いはない。

 

 そのような若者を嘆く年長者もいますが、セリフで全部説明する作品を長らく作り続けてきたのも、倍速視聴機能を提供したのも、われわれ大人ですよね。彼らは環境に順応しただけ、とも言える。

 

 幼い頃からタブレットで動画を観てきた子供たちが、これから大人になります。彼らは興味のないシーンはスライダー操作で飛ばして、好きなシーンだけを繰り返し観るということが身についている。もうすぐ、倍速どころではない時代がやってくるんですよ。

 

( SmartFLASH )

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