■(1)「誰にも起きうる」ことを知る
メンタル疾患や自殺の問題が語られるとき、ほとんどの人は「自分とは無関係」と思ってしまいます。だから、メンタルの危機に対する予防策を講じるようなことはありません。
しかし、メンタル疾患の生涯罹患(りかん)率は、約20%といわれます。言い換えれば、5人に1人が一生のうちに一度はメンタル疾患にかかる計算になるのです。
そして、自殺者の数は2020年と2021年の2年間で約4万2000人。一方、新型コロナで亡くなった方は、この原稿を書いている時点(5月17日)で約3万人です。単純に数字を比較するわけではありませんが、日本で自ら命を絶つ人がいかに多いかということは、おわかりいただけるのではないでしょうか。
その状況を考えると、コロナに感染しないよう気を配るのはもちろん大事ですが、それと同じくらい、いや、それ以上に、あなたやあなたの家族、周りの人がメンタルの重大な危機に直面していないか、気を配ることも大切です。
私の経験から言うと、ムードメーカーでいつも明るく、「この人は絶対にうつ病にならない」と思える人ほど、メンタルダウンします。明るく振る舞うことで、無理をしているのです。気分が落ち込んでも、それに気づかれないよう周りに気を使い、笑顔でいつづけることは、相当なストレスであり、精神的にも非常に疲れます。あなた自身や、あなたの周りにそういう人がいたら要注意です。
メンタル疾患は「誰にも起きうる」ことを知っていただきたい、と切に願います。
■(2)テレビのニュースを見すぎない
コロナ禍において、テレビで不安や恐怖を煽るようなニュースをなるべく見ないようにすることは、本連載でも何度も繰り返しお伝えしてきました。文字の情報に比べて、視覚的な情報は、6倍記憶に残りやすいとされます。つまり、6倍刺激が強いからです。
「死」に対する報道を何度も目にすると、人は無意識に「死」に引き寄せられます。先述のように、群発自殺を引き起こしかねないセンセーショナルな報道をするマスコミは後を絶ちません。そんな報道に長時間接していれば、心を病んでも不思議ではないのです。
■(3)ガス抜きする
2年半近くの間、「人と会う機会が減った」「テレワークが定着して雑談をすることがなくなった」といったコミュニケーション不足の状態が人々の間で続いています。
コミュニケーションは「癒やし」と捉えることもできます。「つらい」「大変だ」と誰かに聞いてもらうだけで、ストレスの大部分は抜けていきます。弱音を吐いたり、ぼやいたりするのは、心の安定にとってよいことなのです。
しかし、その機会が減れば、ストレスの風船はどんどん膨らんでいって、どこかの時点でバーンと破裂します。それが、メンタル疾患や自殺です。
そうならないためにも、人とのコミュニケーションによる適度なガス抜きは絶対必要です。誰かと久しぶりに飲みに行く、あるいはスポーツ観戦に誘ってみる。そこで交わされる会話は、私たちの「心の癒やし」に大きく貢献しているのです。
著名人の自殺報道にふれるたび、有名になるほど「人に相談できない」「人に知られたくない」「ワイドショーのネタにされたくない」という心理が働くことが一因ではないか、と思ってしまいます。「王様の耳はロバの耳」というイソップ寓話がありますが、「人に話せない」状態は、それだけでストレスになります。
もし、あなたの身近に悩んでいそうな人がいたら、話を聞いてあげてください。自分からも話し、相手の話にも耳を傾ける。そうすることで、互いにメンタル危機のリスクを下げることができるのです。
かばさわ・しおん
樺沢心理学研究所代表。1965年、北海道札幌市生まれ。札幌医科大学医学部卒。YouTubeチャンネル「樺沢紫苑の樺チャンネル」やメルマガで、累計60万人以上に精神医学や心理学、脳科学の知識・情報をわかりやすく伝える、「日本一アウトプットする精神科医」として活動
写真・福田ヨシツグ
イラスト・浜本ひろし