■「悪質なあだ名」が減れば、「いじめ」は減る?
今回の「あだ名問題」は、 “悪質なあだ名が減れば、いじめも減る” というロジックに基づいています。そもそも、このロジックは正しいのでしょうか? 心理学的に見ると、このロジックは正しいと思います。
環境犯罪学の世界に「ブロークン・ウィンドウズ(割れ窓)理論」があります。米国の犯罪学者・ウィルソンとケリングが1982年に発表した理論で、建物の窓が1つ割れているのを放置していると、ほかの窓も割られ、結果として、犯罪に配慮していない場所という意識を増長させ、犯罪発生率が増加する、というものです。
1980年代から犯罪発生率が高く治安の悪い街として知られていたニューヨーク市。1994年に市長に就任したジュリアーニ氏が、この理論を応用し、「地下鉄の落書き」や軽犯罪を徹底的に取り締まったところ、重大犯罪が75%も減少したといいます。小さなほころびが、徐々に大きくなって、結果として凶悪な犯罪に結びつく。つまり、「小さなほころび」を改善していくことで、大きな破綻を防ぐことができるのです。
相手を馬鹿にするようなあだ名。それがどんどんエスカレートしていき、やがてはもっと悪質な「いじめ」へと発展していく。
「割れ窓理論」に従えば、最初のほころびである「悪質なあだ名」をなくせば、「いじめ」を減らすことにつながるということになります。
「いじめに至る最初のほころび」は、あだ名以外にも考えられます。たとえば、悪口、誹謗中傷、陰口などがそれにあたるでしょう。
ですから、「あだ名」だけを禁止しても、悪口や誹謗中傷が横行していれば、効果は期待できません。これらネガティブなアウトプットを、子どもたちと話し合い、子どもたち自身で考え、理解する過程で減らすことができれば、いじめの減少につながっていくと考えます。
■ポジティブな言葉を増やす
ここで、ポジティブ心理学の研究を紹介しましょう。
ポジティブ感情とネガティブ感情、あるいはポジティブな言葉とネガティブな言葉の割合において、前者の割合が3:1以上の人は、良好な人間関係や信頼関係をつくりやすい、という研究結果があります(3:1の法則=ロサダの法則)。
子どもたち同士のコミュニケーションにおいても、ポジティブな感情や言葉がネガティブの3倍以上になれば、「楽しい雰囲気」「前向きな雰囲気」にあふれ、「いじめ」もなくなるかもしれません。「キミは素晴らしい!」と言いながら、人をいじめることはできないでしょう。
とはいえ、世の中は、悪口、誹謗中傷、陰口などの、ネガティブなアウトプットであふれています。それらを完全に子どもたちに触れさせないようにするのは難しいでしょう。
そこで、まずは、親がネガティブな言葉を減らすことが大切。子どもは、親の振舞いをよく観察していて、それをまねて成長していきます。あなたが他人の悪口を言ったり、悪態ばかりついていたとしたら、子どもも友だちや同級生にネガティブな態度で接するはずです。
ポジティブな言葉を増やしていく。それは今日からでもできます。そしてそれは、自分のため、子どものため、ひいては社会のためにもなるのです。
アウトプット力を伸ばす方法について、私が中高生でも理解できるように書いた本が『極アウトプット』(小学館)です。ぜひ参考にしてみてください。
かばさわ・しおん
樺沢心理学研究所代表。1965年、北海道札幌市生まれ。札幌医科大学医学部卒。YouTubeチャンネル「樺沢紫苑の樺チャンネル」やメルマガで、累計60万人以上に精神医学や心理学、脳科学の知識・情報をわかりやすく伝える、「日本一アウトプットする精神科医」として活動