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樺沢紫苑の『読む!エナジードリンク』「マスクをはずしたくない人」が急増するワケ

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2022.07.04 06:00 最終更新日:2022.07.04 06:00

樺沢紫苑の『読む!エナジードリンク』「マスクをはずしたくない人」が急増するワケ

マスクをはずすのが怖い

 

 日本の新型コロナ感染者数が減りつつある現在、「マスクをはずそう」というムードが高まっています。真夏日も増えており、マスク着用による熱中症の危険性も叫ばれています。

 

 そんななか、「マスクを取った顔を見られたくない」「マスクなしのコミュニケーションに自信がない」といった、マスクをはずすことへの恐怖や不安の声を、SNS上で多数見かけます。

 

 今回は、なぜ「マスクをはずすのが怖い」という心理が生まれるのか、その原因を考察し、そういう不安を抱える人に向けての対処法をお伝えします。

 

 

■原因1 恐怖条件付け

 

 現在までの2年以上にわたって、医療の専門家から「マスクをしてないと新型コロナに感染する危険が高まる」との注意喚起が繰り返されてきました。

 

 それを受けてか、公共の場でちょっとでもマスクをしていないと、露骨に嫌な顔をされるような経験をした人も多いのではないでしょうか。なかには「マスク警察」といって、マスクをしていない人を見かけたら、厳しく注意したり怒鳴りつけたりする人も各地に現われました。

 

 こうして健康面においても心理面においても、私たちの脳に「マスクをはずすと恐ろしいことになる」という刷り込みがしっかりなされてきたわけです。これを心理学では「恐怖条件付け」と言います。

 

 マウスをカゴに入れ、ブザーを鳴らした直後に電気ショックを与えるという実験があります。これを何度か繰り返すと、ブザーが鳴った瞬間にマウスは恐怖に駆られて、すくみ(フリージング)反応を示すようになります。同じマウスに対し、ブザーを鳴らすだけで電気ショックは与えなくても、やはり同じ反応を呈します。

 

 このように、いったん、恐怖条件付け(=マスクをしないとひどい目に遭う)ができあがると、危険性(=新型コロナへの感染リスク)が取り除かれたとしても、恐怖反応(=マスクをはずさない)は続いてしまうのです。

 

■原因2 扁桃体が過敏になっている

 

「恐怖条件付け」は、扁桃体の興奮と関連しています。扁桃体は、危険をいち早く察知する脳内の警報装置です。

 

 感染者数や死亡者数が増加している、デルタ株の次はオミクロン株が流行している、移動の自粛・会食禁止で人に会えない、テレビをつけると不安な気持ちにさせる情報ばかり……。コロナ禍の間、私たちはこうした扁桃体を興奮させる「刺激」を受け続けてきました。つまり、脳内では警報がずっと鳴りっぱなしだったわけで、その結果、扁桃体が過敏になってしまったのです。

 

「マスクをはずすくらいのことで不安になるなんておかしい」と思う人もいるでしょう。しかし、扁桃体が過敏になっていれば、「些細なマイナスの刺激」に対しても、警報装置が作動し、「不安」な気持ちに支配されてしまうのです。

 

■原因3 心理的ホメオスタシス(恒常性)

 

 人間は(ほかの生物もですが)、同じことを同じように続けるのは楽ですが、新しいことに対しては、大きなストレスを感じてしまいます。生物は変化に弱いのです。

 

 たとえば、毎年4万人が発症するといわれる「引っ越しうつ病」。引っ越しで住む場所が変わる、人間関係が変わる、職場や仕事内容が変わる。そうした「変化」が大きなストレスとなり、うつ病を発症してしまうのです。

 

 人間の身体には、「ホメオスタシス(恒常性)」という機能が備わっています。これは、血圧や体温などを同じ状態に維持しようとする働きです。同じく心理においてもホメオスタシスがあり、「今のライフスタイルや環境をなるべく維持しよう」とします。

 

 私たちは2年以上、外出する際は、ほぼ100%マスクをしていました。それを急に「マスクをはずしてもいい」と言われても、心理的ホメオスタシスによってすぐに受け入れることはできません。今までと同じ行動をする(=マスクをする)ことが安心であり、今までと違う行動をする(=マスクをはずす)と不安になってしまうのです。

 

 以上、挙げた3つの原因を踏まえて、ここからは対処法についてお伝えしましょう。

 

■対処法1 慣れる

 

 先ほどのマウスの実験には続きがあります。「恐怖条件付け」されたマウスは、最初のうちはブザーを鳴らした瞬間に、電気ショックを与えられなくても「すくみ反応」を示すのですが、繰り返すうちに「ブザーが鳴っても電気ショックはない」ということを学習します。その結果、すくみ反応は徐々に弱くなり、最終的にはブザーが鳴っても反応がなくなります。

 

 これを条件付けの「消去」と言います。つまり、「大丈夫」ということを学習した結果、恐怖条件付けが消去されるのです。

 

 これを人間にあてはめると、「マスクをはずすのが怖い」という感情も、感染者数が減って少しずつマスクをはずす場面や時間が増えていくうちに、恐怖は薄らいでいきます。「マスクをはずしても感染しない」「マスクをはずしても嫌な顔をされない」ということを経験的に学習することで、不安を克服できるのです。

 

( 週刊FLASH 2022年7月12日号 )

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