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営業へ異動後も自腹で取材を…ギャラクシー賞大賞受賞「アサリの産地偽装」スクープ記者が語る「取材秘話」と「報道の課題」

ライフ・マネー 投稿日:2022.07.23 06:00FLASH編集部

営業へ異動後も自腹で取材を…ギャラクシー賞大賞受賞「アサリの産地偽装」スクープ記者が語る「取材秘話」と「報道の課題」

福岡県柳川市の水産加工会社「善明」の吉川昌秀社長。以前は大規模なアサリの蓄養をおこなっていたが、正しいアサリの流通のため、実名・顔出しでの取材に応じた(写真・CBCテレビ提供)

 

 2019年6月、CBCテレビの夕方ニュース番組『チャント!』で、熊本産アサリの産地偽装の実態について、現地の業者の証言も交えての特集が放送された。しかし、熊本の関係者の間では話題になったものの、行政は動かず、スーパーには変わらず「熊本産」アサリが大量に並び続けた。

 

「『チャント!』は、愛知・岐阜・三重の東海3県でしか放送されないので、どうやったら全国ネットで放送できるかを、取材中から考えるわけです。CBCはTBSの系列なのですが、TBSが放送してくれなかったのは、まだ証明が足りなかったということです」

 

 全国ニュースで展開するには、より多くの業者の証言を集め、産地偽装の規模や手口について、深く掘り下げなければならない。だが、核心を突いた証言を得られないまま、2021年7月、吉田氏は報道部から東京支社営業部に異動になり、記者職から離れることとなってしまった。

 

「悔しい気持ちはありました。当然、サラリーマンなので、人事異動があることは理解していましたし、その可能性があることも認識していました。ただ、入社1年めから記者をやっていて、この仕事をもっと突き詰めたい、記者としてもっといろいろやってみたいという気持ちがありました。それが人事には反映されず、悔しいというか、悲しい気持ちはありましたね。

 

 これまでの取材を通じて、全国に流通する熊本産アサリのほとんどが、偽装されたものだという確信はありました。ここであきらめたら、問題は永遠に闇に埋もれてしまうかもしれない。真面目に取り組む漁業者が割を食い、消費者がだまされ続ける状況を放っておくことができず、異動後も関係者と連絡を取り合ったのです」

 

「産地偽装」にかかわっていたキーマンが罪を反省し実名・顔出しで告白

 

 そして、2021年秋、関係者の紹介でキーマンとなる人物にたどり着いた。福岡県柳川市の水産加工会社「善明」の吉川昌秀社長だ。2019年に撮影した熊本の干潟で、大規模な蓄養をおこなっていた張本人だった。吉川社長は、年間7000tもの輸入アサリを「熊本産」と偽装し、全国に出荷していたが、2020年10月に産地偽装に関わる脱税の罪で逮捕・起訴され、執行猶予付きの有罪判決を受けていた。

 

 吉川社長は過去の罪を反省し、産地偽装をやめて中国産アサリを正しく流通させるための取り組みを始めていた。だが、吉川社長の取り組みに賛同した業者は業界内のわずか一部で、中国産アサリを出荷することすらできない状況が続いていた。

 

「吉川社長にインタビューで語っていただいた内容は、自らの話ももちろんですが、ほかの業者も含む話でもあります。そこに説得力をもたせないといけないのが、我々のポイントでもありました。首から下だけ撮影したり、声を変えたりでは、視聴者の受ける印象が違います。吉川社長に、すべての肩書、経歴、顔も名前も出して取材に答えてほしい、とお伝えしました。

 

 当初は難色を示していましたが、長年、続いてきた悪習を断ち切り、業界全体を変えたいとの思いから、実名・顔出しでの告発を決心してくれたのです。

 

 営業部の業務とは違う仕事なので、個人的に休日を使って、自腹で福岡に何度も通いました(笑)。吉川社長たちの周囲にも、こういう状況を変えたいという気持ちがくすぶっていて、偽装しないと売れないという状況を変えたい思いは一緒でした。だから、同じ方向を向いてやれたのかな、と。

 

写真・CBCテレビ提供

 

 吉川社長にインタビューしたのは、2021年の11月です。取材に答えてくれるかもしれないという段階で、東京営業部の1人ではできないという限界があったので、報道部で後任となる、入社6年めの吉田翔記者に声をかけました。吉田翔記者とは1年以上、警察回りを一緒にしていて、すごく信頼している後輩でした。だからこそ、彼に一緒にやってもらいたいと思って、インタビューがとれる段階で彼に話をして、報道部で取材をする形にしてもらったのです。

 

 営業部にも、『こういう取材をしているので、引き継ぎを兼ねて行かせてほしい』と伝えて。カメラマンと音声さんと吉田翔記者と4人で福岡に飛び、吉川社長をインタビューさせてもらいました。『長いところルール』を悪用した産地偽装の手口や、偽装が“常識”となっているアサリ業界の実態など、カメラの前ですべてを証言してもらうことができたのです」

 

( SmartFLASH )

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