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専門医が指摘する「発がんの都市伝説」…加工食品、発毛剤、焦げでは「がんになりません」!
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2023.01.29 06:00 最終更新日:2023.01.29 06:00
「私が、東京大学病院の放射線科で助教を務めていたときのことです。あるがん患者さんが突然うちを受診しなくなり、数年後、がんが進行した状態で再び相談に来られました。その間、サプリでがんが治るなどと謳う “詐欺医療” を受けていたそうです。あのときは、悔しかったです」
と語るのは、放射線治療専門医で、つくし訪問クリニック早良院長の上松正和氏だ。
2人に1人ががんになるといわれる現代日本。健康志向も高まるにつれ、がんに関するさまざまな “都市伝説” が生まれている。だが、20の検証のとおり、上松氏によれば、そのほとんどがたんなるデマであることがわかった。
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「患者さんの心の不安につけ込み、お金を儲けようという医師が非常に多いんです。言葉巧みに『効く』と主張することは簡単で、医学的に『効かない』と証明することは難しい。撲滅するには、法的規制も必要です」
がんの都市伝説を鵜呑みにするな!
<発がん編>
■発毛剤・制汗剤でがんになる( × )
「どちらも嘘で、根拠はありません。制汗剤に用いられるアルミニウムが、乳がんを促進させると言う科学者がいるようですが、実際にがんが増えたというしっかりとした報告はなく、むしろ関係ないのではないかという報告が多くなっています」
■インスタント食品を食べるとがんになりやすい( ◯ )
「本当です。しかし実際には、インスタント食品により肥満や糖尿病などの生活習慣病が増加する結果として、がんが増えると考えられます。10万人を超えるフランスの研究調査によると、インスタント食品に近しい食べ物の摂取量が10%増加するごとに、発がんが1割増えるというデータが得られています。ただし、この調査からインスタント食品のなんらかの成分に原因があるとは言えません。インスタント食品の摂取が増加すると生活習慣病にかかりやすくなり、がん発症に繋がると考えられます」
■熱い飲み物を飲むと食道がんを発症する可能性が高い( ◯ )
「本当です。熱い飲み物はその熱障害で、食道がんの発症率が高まると考えられていて、実際にイランの研究では、65度を超えるお茶を飲んでいる人に食道がんの患者さんが多いことがわかっています。しかし、日本ではそんなに熱いお茶を飲む人は少数なはず。中国の研究では、同じく食道粘膜を傷つける作用のある喫煙と、アルコール飲料を常用している人は、温度が低くても発症率が高まるというデータがあるので、気をつけてほしいです」
■辛いものや塩分の多いものを食べるとがんになる( × )
「私は唐辛子(カプサイシン)については否定的です。刺激物一般に、がんの発症率を高める確たるデータはありませんからね。しかし、国立がん研究センターは日本の塩蔵食品(塩漬けした魚や干魚、たらこなどの魚卵など)を摂取すると、がん発症率が高まったという報告を出しています。おそらく、塩蔵の過程で生成されるニトロソ化合物が関係していると推察されますが、胃がんの原因であるピロリ菌と塩分の関係は報告されているので、ピロリ菌の除去を確認していない人は注意が必要です」
■マーガリンを食べるとがんになる( × )
「がんの原因としては嘘ですが、健康のために注意が必要な食べ物ではあります。マーガリンに含まれる油分や塩分は生活習慣病の発症に関連し、多量に摂取する人は、心筋梗塞などの疾患を引き起こす可能性があるため、WHOが注意を促しています」
■たばこを吸うとがんになる可能性が高まる( ◯ )
「これは確実です。日本でがんで亡くなった人のうち、男性で約30%、女性で約5%はたばこが原因とされています。たばこは肺がんの原因となるだけでなく、70種類ほどの発がん性物質が含まれていて、血中に溶け込み、あらゆるがんを引き起こす可能性があります」
■大豆を食べると乳がんのリスクが上がる( × )
「嘘です。おそらく、大豆に含まれるイソフラボンが女性ホルモンのエストロゲンに似ているため、そのような説が生まれたのでしょう。実際は、エストロゲンと拮抗する振舞いをするため、大豆の摂取には乳がんの予防効果があると各国で報告されています。ただし、そもそも欧米諸国より大豆の平均摂取量が多い日本では、大豆摂取による予防効果は認められていません」
■下剤を飲むとがんになりやすい( × )
「嘘です。下剤の使用で発がんするという根拠はありません。逆に便秘によって大腸がんを発症するとまことしやかにいわれていましたが、これも近年の研究で否定されています。国立がん研究センターの報告では、全国8万人の追跡調査をした結果、便通と大腸がんの発症に関連はないと結論づけています」
■ソーセージ、ベーコンなどの加工食品を食べると発がんする( × )
「平均的な日本人は気にしなくて大丈夫です。加工肉には保存料として硝酸塩、亜硝酸塩が使われており、これらが発がんに関与するのは事実です。摂取量が50%増えるごとに大腸がんのリスクは18%増加することが報告されていますが、そもそも加工肉の摂取量が少ない日本での比較研究では、加工肉によるリスク増は報告されていません。ただ、常習的に加工肉を食べている人は気にしたほうがいいでしょう」
■パンや麺などの小麦製品でがんが発症する( × )
「嘘です。小麦製品に発がん性は確認されていません。ただ、精製された白いパン(食物繊維の量が少ないもの)は、糖尿病のリスクが高まるため注意が必要です。また、小麦に使われる農薬のグリホサートには発がん性があるものの、小麦に残留するわずかな量では発がん性が確認されていません」
■焦げを食べるとがんになる( × )
「完全な嘘とまではいきませんが、気にするものではありません。焦げの成分であるヘテロサイクリックアミンやアクリルアミドは動物実験などから発がん性が認められるものの、たとえばお茶碗1杯くらいの焦げを毎日摂取するなどしなければ発がんしないと想定されます。実際、アクリルアミドを人が摂取した際の調査では、摂取量に応じた発がん性の増加は認められていません」
取材/文・吉澤理恵(医療ジャーナリスト)