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コイン投げの確率は「2分の1」ではない!知られざる「数字」の考え方

ライフ・マネー 投稿日:2023.02.24 16:00FLASH編集部

コイン投げの確率は「2分の1」ではない!知られざる「数字」の考え方

 

 私たちはよく、順番を決めたり、何かの賭けをするときに「コイン投げ」をします。それは、表と裏の出る確率が2分の1であると決めてかかっているからでしょう。しかし実際には、コインによっては表と裏の出る確率はずいぶんと違うのです。

 

 貨幣として用いられるコインは多かれ少なかれ歪んでいてバイアスがかかっていますが、アメリカの1セント硬貨(いわゆるリンカーン・セント)は特に歪んでいるといえます。このコインを使って特定のやり方(スピン)でコイン投げを行った場合、約80%の確率で裏が出るそうです。

 

 

 ちなみに1セント硬貨の「裏」とは、2010年まではリンカーン記念館が描かれている面です。このコイン(メモリアル・セント)は、1959年から2008年に鋳造されたものです。その前(1909年から1958年)は、「ウィートバック」(小麦デザインの裏面)と呼ばれる別のデザインでした。そして2010年以降、「ユニオン・シールド」という盾のイメージに変更されました。

 

 おそらくこの3種類の1セント硬貨それぞれで、表(すべてリンカーンの顔)が出る確率は違うはずです。実際に私も手元にあった1セント硬貨でやってみましたが、50回スピン試行して、表が出たのはなんとたったの13回(26%)でした。「コインは歪んでいる」ということは知っていたのですが、それでもあまりの偏りぶりに、少し驚いたものです。

 

 統計学の手続きを使って計算してみたところ、「コインが偏っていない」という仮説が正しければ、これほどの偏りが出る確率は0.1%以下です。これは誤差(理論的偶然)の範囲内にはとうてい収まりません。コインが最初から偏っていると考えるべきです。リンカーンの顔が彫られている面のほうが重いので、そちらが下になる確率が高いのかもしれません。

 

 このことを知らない人がいれば、賭け事で簡単に儲けることができます。たとえば、「コイン投げ(スピン)で表が出たら君に120円あげるが、裏が出れば自分に100円をくれ。ちなみにコイン投げは100回する」という設定を提案すれば、たいていの人は乗ってくるのではないでしょうか。

 

 しかしここで80%の確率で裏が出るアメリカの1セント硬貨を使って、実際に80回裏が出れば、あなたは5600円の儲けです(賭博は罰金に値することがありますので、くれぐれも注意してください)。

 

 統計学には「期待値」という概念があります。想定された確率で事象が生じるときの結果の平均値、のような考え方です。

 

 上記の1回の賭けの相手の儲けの期待値は、1回の賭け金とそれが発生する潜在的な確率である20%(=0.2)を掛けた数、すなわち24円です。

 

 そしてあなたの儲けの期待値は100円×0.8=80円ですので、差額が56円です。だから、100回やればあなたの儲けの期待値は5600円になるわけです。期待値の計算を使えば、実は相手の賞金を400円にして、はじめてトントンになります。

 

 ですので、上記の賭けの設定を「コイン投げで表が出るたびに相手に300円、裏が出るたびに自分に100円」という、相手にとって一見かなり「おいしい話」にしても、やはり何度もやっていればあなたが儲かるわけです。

 

 これは、知らない人にとってはちょっとしたホラーストーリーです。もちろん、賭け金とその割当を最初に決めた上で何度もコイン投げをしていれば、あまりに表が出ない相手は不審に思い、割当を変えさせろ、と言い出すかもしれません。しかし偏りは、1回きりだと見つけることができません。

 

 それにもかかわらず、コインを使った決め方というのはこの世にあふれています。

 

 有名な話だと、アメリカのオレゴン州最大の都市ポートランドは、その都市の命名にあたって2人の開拓者、ラブジョイとペティグローブが対立しました。ラブジョイは自分の故郷であるマサチューセッツ州ボストン、ペティグローブは自分の故郷であるメイン州ポートランドの名前を主張しました。

 

 2人が選んだのは、お馴染みのコイントスです。その結果、ペティグローブが賭けに勝ち、都市の名前がポートランドに決まったわけです。

 

 このときのコインは、今でもポートランドのオレゴン歴史博物館に展示してあります。このコインがほんとうにバランスのとれたものかどうか、誰かにチェックしてほしい気もします。

 

 コインが歪んでいるとなれば、スポーツで行われるコイントスはどうだ、と不安になる人がいるかもしれません。実はちゃんとした公式のゲームならば、コインの歪みに関してはそれほど心配はいりません。というのは、コイントス専用の、かなりの程度バランスのとれたコイン(トスコイン)が用いられるからです。

 

 貨幣は流通・交換のために作られたもので、ギャンブル用に作られたわけではありませんから、人為的な「偶然発生装置」に用いるためには一工夫必要になります。

 

 実は、コイン投げの結果にはコインの性能以外にも影響する要素があるのです。

 

 コイン投げの結果に影響する要素には、コイン自体の歪み以外にも、「投げ方」があります。さきほどまでは、コインをテーブルの上でスピンさせるという方法で話をしてきました。

 

 スポーツの試合では、審判はコインをトス(上に投げるか、あるいは指でフリップ)します。それを手で受け止めるか、あるいは地面に落として結果をみます。

 

 コインをトスした場合、スピンさせたときよりも偏りが減るようです。ただ、それでもバイアスが生じるという研究結果があります。その研究によれば、コイントスをした場合、最初に表を向けてトスすれば、表が出る確率が51%になるそうです。

 

 多くの要因が複雑に絡み合って、予測不可能な偶然が生じてしまうことがわかります。

 

 

 以上、筒井淳也氏の新刊『数字のセンスを磨く~データの読み方・活かし方』(光文社新書)をもとに再構成しました。計量社会学者が示す、現代社会に欠かせない「数字との付き合い方」とは?

 

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( SmartFLASH )

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