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山村の空き家を宿泊施設に…日本の空き家対策はイタリア「分散型の宿」に学べ!

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2023.02.28 16:00 最終更新日:2023.02.28 16:00

山村の空き家を宿泊施設に…日本の空き家対策はイタリア「分散型の宿」に学べ!

 

 山村に増えていく空き家を修復し、これを宿泊施設にすることで、村と都市の交流を図ろうという「アルベルゴ・ディフーゾ」というものが注目を集めている。

 

 アルベルゴは宿、ディフーゾは拡散するといった意味のイタリア語を組み合わせた造語である。

 

 たとえば、従来の大型ホテルは、近代的な垂直型の建物の中に、飲食も、スパも、娯楽も取り込まれている。数日間、滞在しても、下手をすれば一歩も外に出なくてもことは済む。長期的なヴァカンスの習慣があるヨーロッパでは、合理的で便利な造りである。

 

 

 一方、アルベルゴ・ディフーゾは、これとは対照的に、旅行者は、村に点在する古民家の宿を拠点として、周囲の自然や農村の暮らしそのものを楽しむというわけだ。

 

 その起源は、1976年、北部の山間地で起きた震災後の復興プロジェクトである。レセプションは村に一つ、食事は村の食堂やバールを利用してもらえばいいし、その方が村の経済にも寄与する、という発想は、人がいなくなってしまった被災地の村で生まれた苦肉の策だった。

 

 やがて、地理的条件も抱えた問題も異なる各地での試行錯誤が始まり、2006年には、「アルベルゴ・ディフーゾ協会」も設立された。

 

 大多数を占める従来のホテル、アグリトゥリズモ(農家民宿)やB&B(ベッド&ブレックファスト)に比べれば、まだまだ生まれたばかりの宿泊形態で、その数はイタリアでも500軒ほどだ。

 

 古民家の保存と村の存続と活性化という理念を掲げてはいるが、実際には玉石混淆で、うち同協会に加盟するのは、5分の1ほどに過ぎない。

 

 それが2010年を超えた頃から、同じく空き家問題が深刻なスイス、ドイツ、スペイン、アメリカ、日本にも注目されるようになる。日本では、アルベルゴ・ディフーゾが舌を噛みそうだというので、「分散型の宿」などと表現されている。

 

■サント・ステファノ・ディ・セッサニオという小さな山村

 

 なかでも世界の注目を集めてきたのは、日本人があまり知らない中部の山岳地帯、アブルッツォ州の標高1250メートルに位置する小さな集落サント・ステファノ・ディ・セッサニオ村だ。

 

 この山村で、古代ローマ帝国の要所から6マイルめの見張り台があったとされることに由来する「セクスタンティオ」という名の有限会社が、2005年から宿を始めた。

 

 そのおかげで、使われていない別荘を含めれば75%が空き家で、一軒のバールと小さな食料品店、夏にだけ営業する食堂を兼ねた民宿しかなかった村に、今では、30軒以上の新しい経済活動が生まれた。

 

 その後も、同社が、世界遺産となった洞窟住居の街、マテーラに展開した2つめの宿が、欧米のメディアに高い評価を受けた。私は、「セクスタンティオ」の代表、ダニエーレ・キルグレンという人物にじっくり話を聴いてみることにした。

 

 ダニエーレは、村との出会いや、人口が減って窮しているイタリアの山岳地帯や南部の小さな集落の文化的価値について熱心に説いた後で、こう言った。

 

「この地域には、独特な暖炉の文化がある。この辺は冬の寒さが厳しくて、マイナス10度にもなるから、貴族の屋敷に限らず、貧しい農家にも大きな暖炉があった。戦前、この地域を旅したある作家も、招かれたどんな家にも大きな暖炉があったと書いている。そこで、地元のお年寄りたちに話を聴いてまわった。ところが、地元の人たちは、誰も、その価値に気づいていなかったんだ。

 

 だから、単に空き家の活用だとか、不動産経営の話じゃない。文化的なプロジェクトなんだ。僕は、このパブに、この地域の典型的な暖炉を置こうと、周辺の農家をずいぶんと探しまわった。そうやって一つ一つ整合性を見つけて、人々のかつての暮らしを再構成したんだ」

 

 それからダニエーレはビールで喉を潤すと、やおら暖炉の上を指した。

 

「この壁を見てごらん」

 

 その指の先には、真っ黒に煤けたでこぼこな壁があった。

 

「この壁だ。僕は、この煤を残してほしいと、修復を引き受けてくれた建築家に頼んだんだ。でも彼は、漆喰で壁をきれいに塗り直そうと言う。その彼に、この煤だらけの壁を、そのまま残してくれないかと頼んだ。この煤こそが、村の人たちの暮らしの痕跡で、歴史そのものなんだ。そのために、3日もかけて建築家を説得しなければならなかったんだ。

 

 もちろん、賛否両論ある。今でも、どうして壁をきれいにしないんですか? と訊いてくるお客もなかにはいる。けれども、古い暮らしの記憶を抹消して、新しくしてしまったホテルならば、トスカーナ州にも、ウンブリア州にも、世界中にごまんとあるだろう。そんなものは、歴史の殻をかぶっているに過ぎない偽物だ。もはや、本物の歴史は抹消されてしまっているんだから」

 

 当初はかなり懐疑的だったという村の空気が変わり始めたのはいつ頃なのか。

 

「やっぱり、海外のメディアに、ホテルのことが取り上げられてからだね。『フィナンシャル・タイムズ』や『ニューヨーク・タイムズ』、英国の国営テレビ、BBCまで取材に来てくれた。

 

 特に『フィナンシャル・タイムズ』の記事は、僕にとっても一つの転機になった。あの記事で、英国にも人が住まなくなった中世の村がたくさんあって社会問題になっていることを知ったし、イタリアの長い歴史のなかでの山村文化の価値について改めて考えることができた。自分がやるべきことがより明確になった気がした」

 

 なぜ、このプロジェクトは、当初、イギリスやアメリカの経済紙に注目されたのか。

 

 ダニエーレも言ったように、イギリスにも約3000と言われる無人化した中世の集落が点在していた。ペストの流行、洪水、また19世紀末、農耕貴族が都市に移住し始めたことなどから人が消えてしまった集落である。

 

 またアメリカにも、ゴールドラッシュでにわかに生まれ、資源が枯渇するとともに忘れ去られた集落や交通の便が悪い山岳地帯の無人化した集落が約3800もあるという。決して他人事ではなかったのだ。

 

 イタリア最大の環境団体レーガンビエンテの2016年の調査によれば、イタリアでも約2500の集落が無人のままで、約8000の市町村にあたる地方自治体(コムーネと呼ばれる)のうち、5627が人口5000人以下で、過疎化の危機に瀕していた。

 

 そんな現状にあって、イギリスやアメリカのメディアは、少子高齢化が最も深刻なイタリアの試みを注視していたのである。

 

 日本の空き家は、2018年の総務省の調べによれば約864万戸で、空き家率は13.6%と過去最多を更新した。そのうち中山間地がどれほどの割合を占めるのかは不明だが、国内では「消滅集落」と呼ばれている廃村は、2015年の調べで157村だった。

 

「アルベルゴ・ディフーゾ」の考え方は、日本でもおおいに参考になるのではないか――。

 

 

 以上、島村菜津氏の新刊『世界中から人が押し寄せる小さな村~新時代の観光の哲学』(光文社)をもとに再構成しました。廃村・空き家問題の救世主となりうる「アルベルゴ・ディフーゾ」を徹底的に掘り下げます。

 

●『世界中から人が押し寄せる小さな村』詳細はこちら

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