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福澤諭吉の飲酒の歴史が豪快すぎる…自伝を読んだらぜんぜん聖人君子じゃなかった
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2023.06.04 11:00 最終更新日:2023.06.04 11:00
福澤諭吉『福翁自伝』は、じつに豪快な自伝なのですが、読んだ人はあまり多くないと思います。かくいう私も、齋藤孝さんの編訳による『現代語訳 福翁自伝』を読むまでは、『福翁自伝』は本棚に置いてはいたものの、ほとんど開いたことがありませんでした。たぶん、文語体が苦手だったことと、「福翁」の翁の字が、お爺さんの書いた上品な回顧録を連想させたからです。
ところがこの口語訳を読んで本当にびっくりしました。福澤諭吉(1835~1901)って、こんなにお茶目でチャーミングな人だったの、という驚きでした。齋藤孝さんも「はじめに」で、『福翁自伝』を読んでいる人が非常に少ないことを指摘しています。その理由として、「偉人の伝記」だという先入観を挙げています。
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ところがその「はじめに」で齋藤さんが紹介するエピソードだけを読んでも、ひっくり返るほど驚いてしまうのです。
《「便所でお札を踏み、神社のご神体を勝手に捨ててしまう」「人をだまして河豚(ふぐ)を食わせてみる」「遊女のニセ手紙を書く」「子どもの頃からの大酒のみ」などなどのエピソードを、福澤のざっくりとした語り口で読むのは無類に痛快です。》
最初にこの文章を読んで、ホントかなと思いながら読み進むと、福澤諭吉という人が「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」という言葉を残した聖人君子のような人間ではなく、極めて人間的に面白い人物だということが分かって、痛快な読み物を読んでいる快感に酔うことができます。
福澤諭吉の故郷は九州の中津(現・大分県中津市)でしたが、田舎であるため窮屈に思い、1854年、19歳の時に、兄について長崎に行き、蘭学の修行をします。当時のことですから、オランダ語をひたすらに勉強するのです。
やがていろいろな事情が重なり江戸を目指して出奔します。この道中が、また抱腹絶倒の面白さです。やがて大阪に着いて兄に会います。そこで兄に勧められ、緒方洪庵のところで蘭学を学び始めるのですが、その後、中津に戻った兄が急に亡くなり、家を継ぐことになります。
しかし、蘭学を極めたいという願いを母に伝えると、「うむ。よろしい」といわれ、再び大阪の緒方塾に戻っていきます。江戸時代の末期とはいえ、まだ儒教思想の強い時代に、母も思い切りがいいですね。
その緒方塾での学生たちは、皆とても優秀ではありますが、反面、なかなか個性的な人間ばかりであったようです。福澤諭吉は「その中に私が飛び込んで活発に乱暴を働いた」と率直に語っています。
その第一に挙げているのが酒です。
《まず第一に私の悪いことを言えば、生まれつき酒を嗜(たしな)むというのが一大欠点。成長した後には自らその悪いことを知っても、悪い習慣がすでに性質になってしまって、禁酒できなかったということも、あえて包み隠さず明白に自首します。
自分の悪いことを公(おおやけ)にするのはあまり面白くもないが、本当のことを言わねば事実談にならぬから、まず一とおり幼少以来の飲酒の歴史を語りましょう。
そもそも私の酒癖は、成長するにしたがって飲み覚え、飲み慣れたというのではなくして、物心のついた時から自然に好きでした。
今に記憶していることを言えば、幼少のころ、月代(さかやき)を剃るとき、頭の盆の窪(くぼ)のところを剃ると痛いから嫌がる。すると剃ってくれる母が「酒を飲ませるからここを剃らせろ」と言う。
その酒が飲みたいばかりに、痛いのを我慢して泣かずに剃らせていたことはかすかに覚えています。天性の悪癖、まことに恥ずべきことです。》
その後20歳になるまで酒に目のない少年であったことを告白しています。あの福澤諭吉がそんなに酒が好きで、小さな頃から飲んでいたなんてと驚いてしまいます。
これ以外にも、酒のエピソードは何回も出てきます。しかし、酒癖は悪くなかったようで、陽気な酒だったと自分で言っています。やがて緒方塾の塾長になりますが、その収入も酒代になったと告白しています。
ただ、その勉強ぶりも凄まじいもので、兄のもとにいた一年の間、読書に熱中して、眠くなれば机の上で突っ伏して寝るか、床の間の床側を枕にして寝るかしていたので、布団でまともに寝たことが一度もなかったことを書いています。
それも福澤諭吉だけでなく、塾生も同じだったそうですから、当時の青年たちの蘭学に対する情熱は凄まじいものがあったのです。 いろいろなエピソードを読むと、明治という時代を考え、現在の意味を問いなおす味わい深い読書になると思います。
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以上、駒井稔氏の新刊『編集者の読書論~面白い本の見つけ方、教えます』(光文社新書)をもとに再構成しました。読書したくなる気取らぬブックガイド。
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