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アマゾンを大躍進させた日本流「カイゼン」…なぜか日本の産官学はアメリカ流ばかりを重視

ライフ・マネー 投稿日:2023.10.29 11:00FLASH編集部

アマゾンを大躍進させた日本流「カイゼン」…なぜか日本の産官学はアメリカ流ばかりを重視

アマゾンの最新鋭の倉庫(写真:AAP/アフロ)

 

 アマゾン創業者ジェフ・ベゾスは、2010年の株主総会において、「Kaizen」という言葉を使って、株主に対してプレゼンをおこなった。

 

 アマゾンが取り組んできた努力はカイゼンという言葉で表現できること、今後はそれを地球規模に適用して環境問題に焦点をあてたカイゼンをおこないたいと述べたのである。

 

 実際に、アマゾン米国本社にはKaizenプログラムという制度が現在でも設けられている。そこでは、QC七つ道具やQCストーリーなどカイゼンに利用できる手法が教育される。そして、実際に、従業員は継続的にサービス提供プロセスを合理化し、ムダを排除し、顧客満足と従業員満足を向上させるよう求められている。

 

 

 アマゾン米国本社の従業員向けブログ「The Amazon Blog: Day One」によれば、2014年には、カイゼンのために725チーム・小集団が組織され、2300人がKaizenプログラムに参加した。

 

 その結果、ラスベガスの配送センターでは、返品プロセスや歩行のカイゼンなどによって、生産性が34%向上し、仕掛品・中間在庫が46%削減されたという。

 

 同じく2014年にラスベガスで開催された「AWS re: Invent conference」でベゾスが語った内容によれば、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)の本質はトヨタ生産方式・リーン生産方式と同一であるという。このカンファレンスは、クラウド型サーバなどを提供するアマゾン・ウェブ・サービス利用業者向けの講演会である。

 

 なお、2020年現在、アマゾン・ウェブ・サービスは、急速に成長しつつも長らく赤字続きだったアマゾンに莫大な利益をもたらしており、今ではアマゾンの基幹事業となっている。

 

 こうした事例を挙げるまでもなく、ベゾスが日本の経営技術、特にカイゼンから学んでいることは有名だ。この点は、アメリカの生産管理系のコンサルティング・ファームではよく取り上げられる。

 

 ジェフ・ベゾス自身も、アメリカの生産管理系コンサルティング・ファームとの対談やインタビューなどに応じているほか、近年アメリカの研究者などが提唱し発達してきている「Kaizen event」や「Kaizen project」といったコンセプトを使用し始めているほどだ。

 

 これ以外に、マッキンゼー・アンド・カンパニー社が発行する雑誌『McKinsey Quarterly』誌に寄せられた、元アマゾン社オペレーション管理責任者マーク・オネットーのインタビュー記事「When Toyota met e-commerce: Lean at Amazon(トヨタとeコマースが出会うとき:アマゾンにおけるリーン生産方式)」も参考になる。

 

 この記事によれば、アマゾンでは、倉庫作業や物流の効率化のためにカイゼンがおこなわれているほか、アマゾンのシステムの中にもカイゼンを支えるアンドン・システムを導入しているというのである。

 

 アンドンとは、生産ラインに問題があった場合に、ランプ等で異常を周囲に伝える日本語由来(行灯、行燈)の経営技術である。場合によっては現場の作業リーダーがラインを止めて、その場で問題を解決することもある。アンドンは、トヨタ生産方式の構成要素の一つで、海外であれば工場長にしか認められない「ラインを止める権限」を現場に委譲しているという特徴がある。

 

 これをサイトに導入するというのは次のようなことだ。

 

 まず、アマゾンのサイトの中にある商品ページを、いつでも切り離せるように適度な大きさで独立するように設計しコーディングしておく。そして、商品ページに何か不具合があるとエンジニアが気づくと、すぐにそのページを切り離して非公開にする。

 

 同時に、問題が生じたことをそのエンジニアが社内に向けて周知するのである。そして、チームでの問題解決を即座におこない、問題がなくなった時点で、切り離していたページを復活させる。

 

 このように、GAFAMの一翼をになうアマゾンは、日本のカイゼンを取り入れながら着実に成果を生みだし続けている。

 

 その一方で、日本の産官学は、カイゼンという日本発の経営技術を急速に捨て去りつつある。日本企業はカイゼンに注力するよりも、アメリカからやってきた「○○イノベーション」や「デジタル○○」式のコンセプトを追い求める傾向にあるのだ。

 

 日本の政界・官界も、カイゼンといった古臭い言葉をいまさら白書などで取り上げずにアメリカ発コンセプトに追随している。そして、日本の学界でも、カイゼンの研究という分野は縮小する一方だ。

 

 これは、ある種、非常に矛盾した状況である。日本の産官学は、アメリカに追いつかんとして、積極的にアメリカ発の経営コンセプトを受け入れてきている。アメリカで良いとされたものを必死で取り入れてきたわけだ。また、「日本からなぜアマゾンやグーグル、フェイスブック、アップルといったイノベーターが生まれないのか」と問われることも多かった。

 

 その一方で、日本の産官学が目標にしているイノベーターであるアマゾンの創業者が注目するカイゼンは、見なかったことにしているのである。GAFAMを目指していて、GAFAMの取り組みを取り入れようとするのに、その中で日本由来のものは軽視する。

 

 これが矛盾でなくて何だろうか。

 

 もちろん、カイゼンの有用性をきちんと把握した上で「わが社はすでに十分に取り組んでいる」と判断するならばよいだろう。だが、むしろその反対に、日本の産官学は自らの強みを自らの手で捨てているのだ。

 

 

 以上、岩尾俊兵氏の新刊『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか』(光文社新書)をもとに再構成しました。アメリカ式の経営を表層的にマネし、低生産性と低賃金の低空飛行に陥った日本企業は、どうすればこの「負のスパイラル」を抜け出せるのか?

 

●『日本企業はなぜ「強み」を捨てるのか』詳細はこちら

( SmartFLASH )

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