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2年間ゲームに逃げた男が「社会とつながろう」と思った瞬間

ライフ・マネー 投稿日:2017.10.19 11:00FLASH編集部

2年間ゲームに逃げた男が「社会とつながろう」と思った瞬間

写真:AFLO

 

 東海林毅さん(43)の仕事のコンポジターとは、実写素材にCGなどを加えて合成映像を制作する人のことであり、いまやテレビドラマや映画には欠かせない。たとえば時代劇に映りこんだ電柱を消したり、ビルの倒壊シーンを作ったりする。

 

 予算に合わせて合成映像の提案をするのも仕事のひとつだ。東海林さんは現在、NHKBSプレミアムで放送中の『フランケンシュタインの誘惑』で、合成映像の演出と制作をおこなっている。

 

「子供のころから絵を描くのが好きで、中学からは友達の影響で小説を書き始めた。そのうちなんとなく絵と物語がつながって、映画を撮りたいと思うようになった。マニアではなかったけれど、映画は好きだった」

 

 映画を撮るために上京し、美大の映像学科に入った。そして、1年生のときに撮った自主映画が、ある映画祭の審査員特別賞を受賞した。

 

 順調な滑り出しだったが、甘くはなかった。なによりも実力不足だった。このまま続けても負けてしまうが、映像で食べていくにはどうしたらいいのか。まずは自分なりのノウハウ、技術を身につけることだと考えた。

 

 映画に距離を置いた東海林さんは大学をやめ、VJ(ビデオジョッキー)に新たな道を見出す。VJはクラブやライブハウスでDJやバンドの曲に合わせて、リアルタイムでスイッチングして、さまざまな映像を流すものだ。その場でしか成立しない表現方法であり、楽しくて長く続けた。

 

「VJでは食べていけない。そもそも金を稼ごうという意識がなかった。それで、土日だけコンビニでバイトをした。空いた時間はほぼVJのネタ作り。それに3年間費やした。でも、そのときやったことで、いま食べていけているところが多分にある」

 

 やがてVJの映像の斬新さが評価され、そのころ始まったCS放送の番組や、音楽のプロモーションビデオを制作した。忙しくなって生活も安定したが、やりたいことからは離れていく。

 

 それが原因で20代の後半の2年間、映画の合成映像制作の仕事を月に数時間するだけで、延々とネットゲームに逃げた。体も生活もボロボロになり、ついには家賃滞納で部屋まで追い出された。

 

「貯金の残りで引っ越しはできたが、生活費がない。母に泣きついて金を借りた。

 

 いまでも覚えているのが、当時大学時代の友人が買ったマンションに、仲間たちと遊びに行ったときのこと。新築のピカピカのフローリングに自分の前歯のない顔が映った。嫉妬を感じた。金や自分の生活に興味がなかったのになんだ、この感情は? 結局こういう生活がしたいんじゃないか! 

 

 そこで初めて社会とつながろうと思った。初めて名刺を作り営業をした。それまでは自分のやりたいことしか追求してこなかった。29歳のときのことで、一大転機だった」

 

 社会とつながった東海林さんに、タイミングよくビデオ映画の監督の仕事が舞い込む。R指定の『女陰陽師』、 商業作品の監督デビューとなった。

 

 作品は好評で、さらに2本撮った。監督という肩書ができたことで相乗効果が生まれ、仕事が増え、金銭的に恵まれるようになった。こうして自分で稼いで儲ける30代を過ごした。

 

「40歳を過ぎて、自分が本当に愛しているのは自分の中の売れる部分ではなく、売れない部分だということに気がついた。いまは、儲かるからといってそこにあぐらをかかずに、自分がやりたい映画作りに真剣に取り組まないと駄目だと思っている」

 

 二度めの転機を迎えた東海林さんは、自費で映画を撮りだした。先月もゲイの老人の話を撮った。今後も撮り続ける予定だ。
(週刊FLASH 2017年10月31日号)

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