度重なる引退宣言を撤回し、アニメーション製作を続ける宮崎駿監督の新作が明らかになった。
現在製作中の次回作のタイトルは『君たちはどう生きるか』。1937年に発表された吉野源三郎の作品だ。
主人公はコペル君とのあだ名を持つ15歳の本田潤一少年。中学2年生で背は低いものの、成績は優秀。2年前に銀行の重役だった父を亡くしている。
そんなコペル君の大きな支えになっているのが、近所に住む大学を卒業したての法学士である「叔父さん」。主人公に「コペル君」と名付けたのは彼だ。本書はコペル君と叔父さんとの交流を中心に進んでゆく。
そもそも「コペル君」というあだ名がついたきっかけはこうだ。叔父さんと一緒にデパートの屋上へ遊びに行ったコペル君。屋上から、眼下に広がる人間の営みを眺めていた主人公はふと叔父さんにこう呼びかける。
「人間て、まあ水の分子みたいなものだねえ」
「人間て、叔父さん、本当に分子だね。僕、今日、ほんとうにそう思っちゃった」
物事を自分中心に考えるのではなく、俯瞰的に考えることに無意識に気づいた主人公の言葉は、叔父さんに地動説を唱えた天文学者コペルニクスを連想させたのだった。
その後コペル君は叔父さんから「万有引力の法則」を発見したニュートンの話を聞き、自ら「粉ミルクの秘密」というアイデアを思いつく。自分が赤ん坊のときに飲んでいた粉ミルクが、どこで製造され、どんな人間の手を経て自分の元にやってきたのか。
コペル君は叔父さんと見た屋上の光景を発展させ、「世界は自分中心に回っているのではない。世界中のいろんな人間の営みがあって自分は存在している」という事実に気づき始める。
さらに物語はコペル君が学校で日々経験した出来事を軸に展開してゆく。コペル君は、ちょっとしたきっかけから同級生で豆腐屋の息子の浦川くんに興味を持つ。
浦川君は、運動神経が鈍く、授業中に居眠りばかりするため勉強もできない。家が他の生徒と違い貧乏で、さらに弁当に油揚げを持ってきていたため、級友たちからいじめられていた。
浦川君が学校を休み始めたため、コペル君は彼の家を訪れる。そこで浦川君が、店の手伝いをしていたために学校を休んでいたこと、運動神経が鈍そうに見えた浦川君が、テキパキと仕事をこなす姿を知ることになる。
叔父さんはコペル君にこう語りかける。
「生み出す働きこそ、人間を人間らしくしてくれるのだ。これは、何も、食物とか衣服とかという品物ばかりのことではない。学問の世界だって、芸術の世界だって、生み出してゆく人は、それを受け取る人々より、はるかに肝心な人なんだ。(中略)
浦川君はまだ年がいかないけれど、この世で、ものを生み出す人の側に、もう立派にはいっているじゃあないか。浦川君の洋服に油揚げのにおいがしみこんでいることは、浦川君の誇りにはなっても、決して恥になることじゃあない」
物語は進み、友達の北見君が、上級生たちから目をつけられ喧嘩になってしまう。親友たちの中でただ一人、傍観するだけで親友を助けることのできなかったコペル君。
叔父さんは失意のコペル君を「ナポレオンの人生」を引き合いに出しながら、いま何をすべきか優しく語りかける。全編を通し、叔父さんはコペル君に「人が生きていく上で大切なこと」を自分の頭で考えるように促していくのだ――。
本誌記者が都内の書店員に尋ねたところ、「宮崎監督の新作と話題になってから売れています。少し前に漫画化もされており、そちらもよく出ています」とのことだった。
いまから80年前に発表された本作だが、現代の若者たちにも訴えかけるものがあるのだろう。