全国には、中高一貫校も含めて約5000の高校、その倍の中学校、さらにその倍の小学校、そして4年制大学、短大、専門学校、さらに幼稚園など、総数5万を超える広い意味での学校があり、その中で制服(義務教育の場合、標準服扱いが多い)を採用している学校が、制服市場の対象となります。
地区によって制服採用率は異なり、また課程別に見ると、小学校では制服は全体の2割未満でしか採用されておらず、中学校は9割以上が何らかの制服を着ていますが、詰襟、セーラー服などいわゆる地区で設定した標準服が大半で、学校ごとのオリジナルはまだ少数派です。
一方、高校も同じく制服採用率は9割を優に超えますが、ブレザースタイルを中心とする学校オリジナル制服が圧倒的に多い。
短期大学や専門学校では通学服というより、リクルートスーツの側面が多くなり、大学はほとんど制服がないなかで、一部の私立学校がその教育理念から採用しています。
高校ごとに異なるオリジナル制服が広がるにつれ、制服のモデルチェンジでコンペが当たり前になりました。
たとえば、平成一桁時代は、毎年、全国の高校で200校以上(高校全体の4%前後)がモデルチェンジしています。コンペも同数ありますから、仮に参加が平均4チームとして、1チームが2デザインシリーズ(男女×冬・夏・合服×2デザイン=12デザイン)を持ち寄ったら、1年に優に9600を超えるデザインが生み出されることになります。
なかには他校で採用された人気デザインを流用するところもあるので、いくらか数字は減るにしても、その数は膨大で、それが業界でストックされるのです。
そのなかから、実際に採用されたデザイン1200(男女×冬・夏・合服×200校)が、新たに街中に出ていきます。
他国と比較すると、たとえばブレザー制服の本家英国は、伝統を尊び、いったん制服を決めると、よほどのことがない限り何十年も変えませんから、相対的に、日本の制服デザインのバリエーションは桁違いに多く、中身が玉石混交であったとしても、デザイン進化のテンポは、英国の比ではないと思われます。
つまり、学校魅力化の掛け声のもと、全国のかなりの学校が制服のモデルチェンジをしたことと、それを勝ち抜くため、メーカーや流通がデザイン、衣服性能、サービスを競った結果、制服は格段に魅力的になったのです。
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以上、佐野勝彦氏の新刊『女子高生 制服路上観察』(光文社新書)から再構成しました。
学生服メーカーの研究員として20年、路上に立ち、直接聞き取り調査を続けてきたフィールドワーカーが、流行の生まれる現場、多感な生徒たちが求めているもの、そして制服採用の裏側まで、10代のユニフォームのすべてを明かします。