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「私大医学部は金持ちのバカばかり」伝説はもはや過去の話

ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2017.11.22 11:00 最終更新日:2017.11.22 11:00

「私大医学部は金持ちのバカばかり」伝説はもはや過去の話

写真:AFLO

 

 私立大学医学部の学生と言えば、さして優秀でもないのに、親の財力やコネで入学している、という一般的なイメージがある。しかし、現在の私立大学医学部は、最も入りやすい大学でも、早稲田や慶應の理工学部に並ぶレベルであり、一昔前のイメージは当てはまらない。

 

 そもそも「私立医学部学生」=「勉強のできないお金持ちの子弟」というイメージは、いつ作られたのか? それは、医学部新設に沸いた1970年代に遡る。

 

 1970年代に設立された「新設医学部」については、一気に多くの大学が誕生したため、社会的評価としては「懸念」という空気が一般的だった。医師の粗製濫造という批判も公然となされた。

 

 実際、「新設医学部」には、1970年代から1990年代にかけてならば、「普通」以下の学力の受験生でも合格することが可能だった。例えば、かつて金沢医科大学、愛知医科大学、藤田保健衛生大学の偏差値は50以下だった。

 

 こういった「新設医学部」に入学することは、高額な学費を支払うことができ、かつ保護者が「新設医学部」であっても構わない、と容認した場合のみに成立する。

 

 当然のことながら、この条件を満たす受験生は、当時はそれほど多くなかった。そしてこの条件こそが、現在もなお残る「私立医学部学生=勉強のできないお金持ちの子弟」の源流だと言える。

 

 しかし現在の私立医学部の様相は、当時とは全く異なる。国公立大学は相変わらず難関だが、私立大学もそれに追随するほど難化し、その勢いは今なお止まることがない。これほどまでに私大医学部の難度が上がった要因は、いくつかある。

 

 まずは子供を持つ開業医の視点から考えてみたい。それは1970年代の「新設医学部」の設立ラッシュによる医師数の増加に伴い、時を経て医師の息子・娘も同様に激増したことに原因がある。

 

 1970年代後半から1980年代にかけて「新設医学部」の設立によって医師数が激増し、加えて1985年における医療法人に関する法律の改正によって「一人医師の医療法人」が認可されることになった。

 

 現在、街中で当たり前に見ることができる小規模クリニックは、この認可以降の産物である。法改正によって小規模クリニックの設立が加速度的に進むことになったのだ。

 

 この改正は、1970年代に「新設医学部」を卒業した医師たちが、30代半ばに差し掛かる頃になされた。医学部新設とつじつまを合わせるように、医療の大衆化が政策的に具現化されたのである。

 

 医学部新設からこの法改正の一連の流れによって、街に多くの小規模クリニックが誕生した。現在50歳以上の方ならば記憶にあると思うが、1970年代には、現在のような小規模クリニックはほぼ存在せず、少なくとも一人医師の医療法人は理論的に存在しえなかったのである。

 

 ちなみに、法改正翌年度、1986年における「一人医師医療法人数」は179に過ぎなかった。しかしその翌年は723、さらに年を追っていくと1557、6620、9451、1万1296と、5年で60倍を超える数となった。この数は2015年には4万1659となり、医療の大衆化政策はその企図通り、社会に定着したのである。

 

 この一連の流れが、現在の私立医学部入試の過熱の原因の一つとなっていると考えてよい。つまり、1985年以降に医療法人を設立した医師たちの息子・娘が、私立医学部入試に殺到しているのである。

 

 もう一点見逃せない側面がある。それは女性の社会進出である。医師の世界も例外ではなく、現在、医学部志望の約40%は女性である。1980年代の医学部受験の世界では、女性志望者の比率は20%以下だった。近年の過熱現象は、この女性受験生の激増によるところも大きい。

 

 前世紀の医師家庭では、息子が後継医師、娘は芸術分野へと分岐する例が多く見られたが、現在は男性も女性も、兄弟姉妹揃って医師を目指すという構図ができあがっている。

 

 加えて、2012年、2013年にこの傾向に拍車がかかった。私立医学部は相当な費用を要するが、贈与税の法改正があり、祖父母からの資金援助を得やすい環境が整えられた。

 

 つまり、祖父母からの学費援助、塾予備校の費用援助が可能となったのだ。具体的には、1500万円までの教育費に関わる生前贈与が、贈与税の対象から外れ、非課税となった。この法改正により、兄弟姉妹揃って私立医学部を目指せるようになった家族も少なくないだろう。

 

 まとめれば、1980年代以降に小規模クリニックを設立した医師たちが、受験生となる子供を持つ年代に到達し、かつ女性の医学部進出が活発化し、さらにそれを後押しするかのように贈与税の法改正まで加わった、ということである。

 

 これにより、国立大学に比して入学しやすい私立医学部に大量の受験生が流れ込んできた。この萌芽はすでに2000年代半ばにあり、この10年で激増し、ここ数年でさらに拍車がかかったのである。

 


 以上、河本敏浩氏の新刊『医学部バブル 最高倍率30倍の裏側 』(光文社新書)から引用しました。医学部進学予備校を
主宰する著者が、熾烈な競争に苦闘する受験生の最前線を活写。また、豊富な指導経験をベースにした効果的な勉強法を提示します。

 

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