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「これで地位が上がったしん」小説家デビューのクロちゃん、堂々キャバクラ通い宣言、執筆中に失恋も

処女作『クロ恋。』を手にしたクロちゃん(写真・長谷川 新)
芸人が出す本といえば、エッセイや自伝、ネタ本が定番。口述のケースも多い。ところが今、観客や視聴者の歓声に背を向けて孤独に小説を執筆する偉才が現われている。
2025年、ついに安田大サーカスのクロちゃんまでが短編小説集『クロ恋。』(双葉社)を上梓した。
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「163万4600円の婚約指輪を眺めつつ、血の涙を流して書いたしん!」
1月22日放送の『水曜日のダウンタウン』(TBS系)で、交際していたリチにプロポーズして破局したクロちゃんが、刊行した処女作について語る。
「1年ほど前に出版社からオファーをいただいて、自分の実体験をもとに、モテない男のコの話を書き始めました。長編よりも短編が流行りだと聞いていたので、何本か書いてみようと」(クロちゃん、以下同)
収録された4編はすべて恋愛小説。自身の実体験や恋愛観がちりばめられている。
「『恋愛博士の異常な愛情』は、女性がどうやったら喜ぶのか、僕がキャバクラで学んだノウハウを詰め込みました。『地球最期の日』はバッドエンドなのか、ハッピーエンドなのか、読み手によって違う感想になると思いますね。男子2人、女子1人の恋と友情を描いた『揺れる』は、何回も読み返したくなるようなストーリーになっています。『Lv.17の勇者』は、『ノストラダムスの大予言』と勇者の話。小さいころ本気で勇者になりたかった僕自身の、ドキュメンタリーに近い話です」
当初は、全話をバッドエンドにしようと思っていたそう。
「ハッピーエンドにすると、読者をハッピーにさせてしまうじゃないですか。当時の僕はリチとつき合っていたし、読者よりもハッピーでいたかったというのがその理由なんだけど、担当編集者に止められました」
そんな邪(よこしま)な気持ちの結果か、小説の執筆期間中に、リチとの恋は終わってしまった。
「テレビでのプロポーズは、絶対OKしてくれると思っていたから、めちゃくちゃショックで……。結局、自分がいちばんのバッドエンドになったので最悪ですよ。悪いことが最後に返ってくるなんて、日本昔話みたいで嫌だなと思いました」
失恋は、執筆にも影響を与えた。
「何も思い浮かばなくなって、完全に筆が止まりました。泣きながら書いたところもあります。指輪を見ながら泣くだけ泣くとちょっとスッキリするんですけど、しばらくするまた泣く、を繰り返していました。リチとの別れがなかったら生まれていない話もあります」
近年、小説を書く芸人が増えているが、その影響は?
「ぜんぜんないです。僕はあまり本を読まないので。又吉さんは芥川賞作家と呼ばれて、芸人のなかでも地位が違いますよね。僕も本を出したことで地位が上がったので、これからめっちゃキャバクラに行こうと思っています。絶対、モテるはずなんで! そして本が売れたら、次は映画化ですね。雇われ監督、やりますよ。そうなると、僕の地位がさらに上がるしんね」
■書評家・杉江松恋氏が語る2010年代以降の「芸人小説」
近年の「芸人小説ブーム」のきっかけは、もちろん2015年の又吉直樹の『火花』(文藝春秋)の芥川賞受賞だ。 2010年代以降は太田光や笑い飯・哲夫、内村光良、山里亮太、ヒコロヒ―など、錚々たる芸人たちが小説作品を発表している。そして書評家の杉江松恋氏が語る。
「又吉さんからあきらかにフェーズが変わりましたね。突然、文芸誌『文學界』に作品が掲載されて大きな話題になりました。当時の文壇は新しいスター作家を欲しがっていて、そこに又吉さんがハマったんです。テレビなどで活躍している人に本を書かせて、うまくいけば継続する流れができました。かつてはゴーストライターにまかせていたと公言されているビートたけしさんも、2010年以降はご自身で書いていらっしゃると思います。2019年の『キャバレー』(文藝春秋)は、綾小路きみまろさん目線でツービートを描いた作品。芸人が書いた小説のなかで、最高傑作だと思います」
又吉の次を狙える芸人は?
「注目はAマッソの加納愛子さんとラランドのニシダさん。2人とも芸風と切り離されたいい小説を書いています。ニシダさんはいつか、長編を書くでしょう」
取材協力・BOOKS 音羽