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【令和の出世ゲーム】リモート男は昇進しないは本当か…コロナ終息で即座に「完全出社」に戻したGMO「リモートで失ったもの」とは?

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記事投稿日:2025.05.31 06:00 最終更新日:2025.05.31 06:24
出典元: 週刊FLASH 2025年6月10日号
著者: 『FLASH』編集部
【令和の出世ゲーム】リモート男は昇進しないは本当か…コロナ終息で即座に「完全出社」に戻したGMO「リモートで失ったもの」とは?

完全出社する社員を背に、「ナンバーワン」ポーズを取るGMOの西山裕之副社長(写真・福田ヨシツグ)

 

 リモート勤務ばかりしていると、出世が遅れる!? IT企業にも「出社回帰」の波が広がるなか、完全リモートOKを “撤回” したGMO副社長らが語る経営者たちのホンネとは――。令和の出世ゲームの実態を探った!

 

「2021年ごろの話ですが、当時の勤務先はリモートワークを推進していまして。私も、疑問を持たず積極的に制度を利用していたんです」

 

 そう話すのは、大阪在住で某上場企業に勤務していた50代のUZAさん(ハンドルネーム)だ。

 

 

「私が所属していた総務部法務課を、部に昇格させるという話が持ち上がったんです。その暁には、私に部長をまかせたいと、内々に打診されていました。ところが、いざ私の上長が社長に人事案を伝えたところ、『いや、彼はリモートワークが多いやん』と。結果的に、新設された法務部の部長には、外部から採用した方が就きました」

 

《リモートワークしたら出世できなくなったおじさん》

 

 UZAさんは、このときSNSにそう書き込んだ。当時を振り返り「あのときはカッとなって、そう投稿したんでしょうね」と笑う。

 

 2020年のコロナ禍で、オフィス街からは人が消えた。人事ジャーナリストの溝上憲文氏が解説する。

 

「最初は、緊急避難的にリモートワークが始まりました。ですが、自宅と会社を結ぶシステムの導入が必要だったため、中小企業には切り替えにタイムラグが発生しました。そのなかでも、2020年1月というきわめて早い時期に完全リモートワークに移行して先鞭をつけたのが、GMOインターネットグループ(以下、GMO)でした。4月に緊急事態宣言が出されると、GMOのあとを追って、リモートワークに移行することが当然だという流れになりました」

 

 GMOで「人財開発」を統括する西山裕之副社長に話を聞いた。

 

「弊社は東日本大震災以降の約10年間、巨大地震が起きた場合を想定し、自宅でのリモートワーク訓練を毎年おこなっていました。そのため、コロナ禍で比較的スムーズにリモートワークに移行できたのです」

 

 いち早く完全リモートワークに移行したGMOは、制度に “見切り” をつけるのも早かった。緊急事態宣言の終結後に原則週3日出社とし、2023年2月からは原則的に週5日出社に切り替えたのだ。

 

 営業やエンジニアなどの職種や、グループ会社によって勤務体系は異なるが、現在の出社率は約8割にのぼるという。では、出社推奨へと舵を切った理由は何なのか。

 

「弊社は、コロナ禍の前からZoomやSlackなどのツールを活用し、支障なく業務をおこなってきました。しかし、完全リモートとなってそれらのツールで業務が完結したときに、パートナー(同社の従業員のこと)同士のコミュニケーションが極端に減ってしまったんです」

 

 乗り合わせたエレベーターの中や、廊下ですれ違ったとき、従業員同士で会話をするなかで、新しいアイデアが生まれてきた。そんなコミュニケーションが、完全リモートとなったことで絶えてしまったのだ。

 

「業務上、 “ちょっと聞きたいこと” が生じたときに近くの人に聞けなかったりすることが、在宅勤務をおこなうパートナーのストレスになっていました。

 

 日本人にとって、会社はひとつのコミュニティであり、価値観を共有して一緒にものづくりをすることを、大事にする考えがあると思うんです。仕事を進めるうえで、実際に会っていない人と信頼関係を築くのは、なかなか難しいですよね」

 

 このGMOの決断も、オフィス回帰の流れを後押しした。LINEヤフーは、交通費の上限をなくして国内のどこでも勤務できる制度を撤廃。2025年4月からは出社日を設け、完全リモートを廃止している。“リモート慣れ” したIT企業ではなく、JTC(終身雇用や年功序列など、日本の伝統的な企業文化を残す大企業)では、その傾向はさらに顕著だ。前出の溝上氏が語る。

 

「出社勤務では、管理職はそばにいる部下に直接指示を出せますし、仕事の進捗も把握することができます。ところが在宅勤務だと、部下がちゃんと仕事をしているのか把握が難しいんです。Zoomの会議でも、カメラをオフにして相槌だけ打っている若手がいますからね(笑)。リモート制度を残していても、 “出社すべし” という暗黙のルールを強いている昔ながらの大企業は多いようです」

 

 そのルールを読めないと、冒頭のUZAさんのように “出世できなくなったおじさん” になってしまう。

 

■「マネージャー以上の人は明らかに出社比率が高い」

 

 関西在住の30代男性・でんけんさん(ハンドルネーム)は、以前勤めていたJTCでは「リモートをするかしないかは、上司に合わせざるを得なかった」と話す。

 

「学歴などの観点でいけば、そこそこ優秀な人しかいない会社だったので、出世は “配属の運” にかなり左右されましたね。そこでしっかり目立った人が評価され、出世していました。

 

 しかし、35歳を超えて管理職になると、かなり転勤の頻度が激しいんです。あっちこっちに飛ばされてまで、しがみつく必要があるかなと思って、今の会社に転職しました」

 

 現在の会社は転勤がなく、待遇もさほど変わらない。現状に満足しているでんけんさんだが、昇進をめぐって、同僚たちのこんな姿を目にすることになった。

 

「今は、月あたりで決まっている最低出社日数を守っていれば雇用上は問題ないんですが、マネージャー以上の人は明らかに出社比率が高いんです。

 

 出社判断を個人の裁量にまかせるとなると、結局、出社して目立っている人が出世するのは、前に働いていた会社と変わりない気がします。週2日しか会社に来ない人もいますが、やはり出世は遅れていますね」

 

 でんけんさん自身は「出社しないと得られない情報や刺激がある」と、ハイブリッド勤務を満喫しているという。

 

「やはり、管理職の手前のポジションがいちばんコスパがいいと思うんです。管理職になると残業代がつかないですし、うまく手を抜ける人じゃないと、自分に仕事が集まってきてしまいますよね。

 

 とはいえ、上司に期待されているのに “ここまででいいです” というのは寂しいし、社内的な立場はあったほうがおもしろいと思うんです。葛藤していますね(笑)」

 

 前出のGMOの西山副社長は「リモートワークと出世」の関係について、こう答える。

 

「GMOではZoomのときのカメラは必ずオンにするルールがありますが、そうでなくても、 “リモートだから” とサボってしまう人は、この会社には向かないんじゃないかな(笑)。

 

 お客様に仕事を褒められたり、パートナーに喜んでもらえたりすると、自分のプライドにつながりますよね。その誇りがいちばん大事なんだという考えを “GMOイズム” と呼び、これを共有できることを採用基準にしていますから、そんな人は弊社にはいないと思います」

 

 社内には、ワンフロアぶち抜きのカフェがある。毎週金曜の「バータイム」には、1000人ほどが参加し、 “GMOイズム” を確かめ合うという。

 

 ということは、やはり “コミュ力に長けた陽キャ” が出世するのかと思いきや、西山氏は笑ってこう否定した。

 

「渋谷のIT系だから、キラキラしている企業だと想像されているかもしれませんが、わりと体育会系なんですよ。人事評価は上司・部下、同僚から360度でおこなわれ、それが指標になっています。

 

 僕も150人くらいから評価を受けて、非常に辛辣なことを言われます(笑)。いくらコミュニケーション力があっても、サボっている人間はもちろん、上長に媚を売っている人間、うまく立ち回っているだけの人間は評価されません。チームワークが大事なんです」

 

 前出のUZAさんは現在、転職して別の会社に勤務。法務担当として晴れて部長となり、部下を率いている。

 

「今は毎朝フル出社して、社歌を歌っています(笑)。昭和体質の会社なんです。とはいえ、ときどき私はリモートワークを利用していますが、若い人は使いづらいだろうなと思います。

 

 だからこそ、部下を評価するときは『リモートだから』『目立ってるから』ではなく、仕事内容で評価するようにしています。過去の自分が受けた “不当な評価” が、根っこにあるのかもしれませんね(笑)」

 

 コロナ禍で記者が “リモートばかり” だったときは、近所の飲食店のランチを開拓することで頭がいっぱいだった。やっぱり、そのせいで出世が……!?

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