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愛知で2人死亡…マダニが媒介する感染症「SFTS」ペットや草むらの作業で感染「生息域は全国に」専門家が警鐘

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記事投稿日:2025.06.26 14:35 最終更新日:2025.06.26 14:35
出典元: SmartFLASH
著者: 『FLASH』編集部
愛知で2人死亡…マダニが媒介する感染症「SFTS」ペットや草むらの作業で感染「生息域は全国に」専門家が警鐘

肩にかぶりつくマダニ(写真・AC)

 

 2025年5月、三重県で1人の獣医師が呼吸困難などの症状で死亡した。獣医師は、4月にSFTSウイルス(重症熱性血小板減少症候群)感染が確認された猫を治療していたとみられる。

 

 5月には茨城県で、ペットとして飼われていた猫にSFTSウイルスの陽性が判明。関東地方で、ペットが感染したことが確認されたのは初めてとみられる。そして6月25日には、愛知県豊田市で50代の女性と、90代の男性が同月に死亡したと発表した。検査の結果、やはりSFTSへの感染が確認された。女性は草むらで除草作業をしていたという。

 

 SFTSは、マダニが媒介するSFTSウイルス(フレボウイルス属)によって引き起こされるウイルス性疾患。初めて報告されたのは2011年の中国で、日本では2013年に初確認されて以降、現在までに約1000件以上の感染例が報告されている。国内では報告例のうち約10~30%が死亡に至ったとされている極めて致死率の高い疾患であり、特に高齢者で高くなる傾向がある。

 

 

 感染症に詳しい五良会クリニック白金高輪理事長・五藤良将医師が解説する。

 

「SFTSの初期症状は発熱、倦怠感、吐き気、嘔吐、下痢、頭痛、筋肉痛など風邪や夏バテと非常によく似ており、見逃されやすいのが特徴です。特に問題なのは、多くのケースで発症から7日め前後で、多臓器不全を引き起こす可能性があること。高齢者や基礎疾患を持つ人は重症化リスクが高く、致死率も上昇します」

 

 初期におこなうべきは血液検査。SFTSは風邪と違い、白血球・血小板の急激な減少や、肝臓や筋肉中の酵素(AST、LDH、CK)の値が上昇する。検査でこれらを見逃せば、命取りになりかねないのだ。

 

 注目が集まるSFTS以外にも、マダニが媒介する感染症は多数存在する。

 

「発熱と発疹をともなう『日本紅斑熱』などの感染症のほか、関節炎や神経障害を引き起こすこともある『ライム病』、ウイルスが脳に達すると死に至ることもある『ダニ媒介脳炎』などは、いずれもマダニによって感染する病気です。場合によっては重篤化するものもあり、早く気づくことが命を守るカギになります」(五藤医師、以下同)

 

 冒頭の獣医師の死亡例では、マダニに刺された痕跡は見つかっていない。「SFTSウイルスに感染した猫の血液や分泌物などによる接触感染の可能性も考えられる」と、五藤医師は推測する。

 

「過去にはSFTSウイルスに感染した猫にかまれて発症した事例がありますが、今回はSFTSを発症していた猫の血液や、分泌物を介した感染の可能性があります。全国で感染例の報告が相次いでいる今は、獣医師やペット関連業種の従事者は、接触感染予防策を徹底する必要があります」

 

 2023年には、日本国内で患者の血液や体液を通じて、SFTSが人から人へ感染したケースが1例ある。医療従事者が処置中に感染したのだ。

 

「SFTSの致死率はおよそ5~30%。特に高齢者や基礎疾患がある人は、重症化しやすく注意が必要です。現在、特効薬は存在しませんが、2024年には、抗インフルエンザ薬であるアビガン(ファビピラビル)のSFTSに対する有効性が一部の研究で示され、治療選択肢の一つとして検討されています。死亡率を10%程度下げるとされていますが、アビガンも万能薬ではありません。早期診断・早期治療が生存率を左右します」

 

 五藤医師いわく、SFTSを防ぐために実践的な対策は以下の5つ。

 

 1.長袖・長ズボン・手袋・長靴など、肌の露出をできるだけ避ける
 2.虫よけスプレーを皮膚だけでなく衣類にも使用する
 3.草むらや山林に入った後はすぐに入浴し、着替える
 4.ペットを草むらに入れないよう注意する
 5.マダニに刺されていたら自分で取らず、すぐ病院へ

 

「マダニを無理に取り除くと、体内にウイルスを押し戻すリスクがあるため、必ず医療機関で適切な除去処置を受けてください。SFTSは、かつて西日本を中心に広がる“山の病気”とされていましたが、温暖化などの影響でマダニの生息域は全国に広がりつつあります。西日本だけでなく東日本や都市部でも患者が報告されており、今や誰にとっても他人事ではない感染症となっています」

 

 マダニ感染症はすでに、“身近なリスク”になっているのだ。

 

取材/文・吉澤恵理(医療ジャーナリスト)

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