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私たち博報堂生活総合研究所は、2023年から2024年の夏にかけて、母子27組の「チャットアプリ母子やりとり調査」を実施。最長17ヶ月、総チャット数で12万6420件のデータを提供してもらいました(2025年には、父子16組にも同様の調査を実施)。
それらのやりとりを収集・分析することで、Z家族のコミュニケーションの特徴が明らかになりました。インパクトのある数字でいうと、たとえばある母子は約1年間に6000件ものチャットをやりとりしていました。性別を「母と娘」に絞ると、1週間に平均約60件、合わせて120件程度のやりとりがなされています。
1週間で60件ということは、1日あたり8〜9件。調査対象となった27組のうち25組は同居している母子ですが、一つ屋根の下に暮らしながらやりとりが活発に行われている様子がうかがえます。
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「母と息子」も、「母と娘」ほどではありませんが、1週間で平均40件強、1日あたり6件程度と、意外なほど密にコミュニケーションを取っています。なかには、母と息子それぞれが週150件近くチャットを送り合い、合わせて300件以上のやりとりがあるケースも見られました。
念のため記しておくと、これらのやりとりは「双方向」で行われています。母親が送れば子どもも返すし、それに対して母親もまた返す。一方通行のやりとりは、どの親子でも一切見られませんでした。「親が子どもを心配してメッセージを送り続けている」「それを子どもがわずらわしく思い、スルーしている」といった関係ではないということです。
共働きが増え、一緒にいる時間は減っていたとしても、それだけ頻繁にチャットアプリ上でやりとりを交わしていれば、お互いへの理解や絆は深まります。テクノロジーが進化したことで、共有できる感情も情報も大きく増えたのです。
■母と息子が洋服を共有し、一緒にオタ活
大きな関係性の変化は、「母親と共通の趣味をもつ若者が激増している」ということです。恋愛の優先度が以前ほど高くなくなった今、母親が子どもの価値観に変化を与えるファクターとして存在感を増しており、それが消費行動にも大きな影響を与えているのです。
データを見てみましょう。「母親と共通の趣味がある」若者の割合は、かつての29.9%→50.7%と大幅に増加しています。娘は41.1%→60.0%、息子ですら19.5%→41.6%の変化ですから、驚きです。
ちなみに、お父さんもどうぞご安心ください。父子で共通の趣味をもつ割合も、全体で約8ポイント増加しています(33.6%→41.5%)。特に息子は母親よりも父親との趣味を共有する割合がわずかに上回っており、思わずほっとしてしまう結果となっています。父親、母親のいずれかと共通の趣味のある若者は62.2%(息子59.3%、娘65.1%)にのぼりました。
母親の話に戻ると、かつて、特に男子は思春期に母親と外出すること自体が気恥ずかしさを伴うものでした。母親からどこかに行こうと誘われても「俺は行かない」と突き放していた人も多かったのではないでしょうか。
しかしZ世代の若者に取材すると、どこに出掛けるにしても男女ともに一切のネガティブさを伴わない自然な行動として「お母さんと一緒」があることに驚かされます。もともと、母と娘が連れ立っての行動は1990年代から「友達親子」として顕在化していました。
それは現在でも、「一年に一回、母と2人で旅行に行くための費用を毎日貯金している」(19歳・女性)といった声があるように、さらに定着しています。それだけでなく、母息子の関係でも「男性アイドルのオタ活で一緒に年末ライブに行く」(22歳・男性)といった声が多数聞かれるようになっています。
また、さまざまなモノやサービスを母子間で共有しているのも、Z世代とその母親の関係の特徴です。
ファッションや美容では、母娘での共用はもはや当たり前になっています。母息子でも、「洋服を母親によく取られますし、自分も取ります」(20歳・男性)、「光脱毛器を母と共有しています」(19歳・男性)といった声にあるように、ユニセックスなパーカーやキャップ、化粧品や美容家電(ヘアアイロン、光脱毛器など)でも「お母さんと一緒」の姿が多数見られたのです。
■甘え上手で経済的メリットを享受
母親と共有しているものはファッションや美容だけではありません。お話を聞いたSさん(21歳・男性)は、母親とウイスキーのボトルを飲むのが日常の楽しみだといいます。
若者というと「酒離れ」のイメージもありますが、Sさんと母親は「飲み友」なのだそう。母親にお酒を教えてもらったことで、まずビール、そしてウイスキーを好きになったと語ります。「母親が九州出身で近くに飲み友がいないので、僕が一緒に飲んでいるという感じですね」と言いながら、入手困難になりつつある日本の高級ウイスキーのボトルを見せてくれました。
身体的な特徴や能力がそうであるように、生活習慣や趣味、さらには購買行動にいたるまで、親から子へと受け継がれる領域は今後さらに広がっていくでしょう。
もちろんその逆に、子どもから親へトレンドが伝播するケースも多く見られます。娘の影響で母親がeスポーツにハマり、プロゲーマーの試合を一緒に観戦しに行くようになったなど、推し活ではこのパターンも少なくないようです。
上の世代から下の世代へ、あるいは下の世代から上の世代へと双方向で趣味や消費が伝播する背景には、世代や年齢による価値観や趣味嗜好の違いが少なくなっていく「消齢化」現象も大きく影響しているはずです。
また子ども側から見ると、親と趣味を共有することには、親子で共通の楽しみを持てるという安心感や喜びという心理的なメリットはもちろんのこと、実利的なメリット──つまり、経済的にも恩恵を受けられるというしたたかな側面もありそうです。
たとえば「推し活」で韓国まで一緒に遠征したり、ライブに足を運んだり、少し背伸びしたブランド品に挑戦してみたりといった特別な体験をしたいとき、「お母さん、一緒にどう?」と持ちかけ、「お財布」を出してもらうわけです。
先述の「チャットアプリ母子やりとり調査」で収集したやりとりを分析すると、男女問わず、Z世代の若者が非常に甘え上手であることに気づかされます。
コミュ力が上がっているともいえますが、親に甘えることに照れがありません。しかも親が「たかられている」と感じないような演出、親にもメリットがあることを示す誘い文句を巧みに入れて、これはwin-winだよと示すのもうまい。一見あざといようですが、これも交渉を持ち出せる良好な関係性があるからこそでしょう。
Z世代の若者にとって、親子は「上下の関係」ではなく、いわば「前後の関係」です。親は自分の少し前を歩くメンターであり、共依存的だったり、閉塞感を伴ったりするような関係ではないのです。
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以上、博報堂生活総合研究所『Z家族 データが示す「若者と親」の近すぎる関係』(光文社新書)をもとに再構成しました。企業や社会がZ世代とどう向き合うべきかを考えます。
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