
茨城県つくば市で発生した竜巻の被害。家屋が倒壊している(写真・梅基展央)
「日本の竜巻が“アメリカ化”しています」
こう語るのは、三重大学大学院の立花義裕教授だ。気候変動、異常気象などに詳しい立花教授は、昨今乱発する巨大竜巻を危惧していた。
9月5日、静岡県牧之原市に竜巻が発生。風速は、秒速約75mとされ甚大な被害をもたらした。19日には茨城県つくば市でも発生し、家がつぶれるなどの惨状になった。さらに2日後の21日には北海道の新ひだか町でも竜巻とみられる突風で窓ガラスが割れ、ケガ人も出ている。立花教授は、この一連の被害をこう見ていた。
「牧之原の竜巻などは、おそらく過去最強だと思います。私も現地に行きましたが、鉄骨住宅で2階などの壁面が吹き飛ばされたり、車が転がっていたりと、威力の強さを感じました。威力は、“アメリカ級”のものと言ってもよいと思います。
強力な竜巻が発生する原因としては、地球温暖化が挙げられるでしょう。日本周辺の海面水温が、平年と比べて今年は3℃ほど高いんです。
そもそも竜巻は、地上近くで発生した小さな渦が、発達した積乱雲の上昇気流によって引き上げられることで発生します。今年は猛暑の影響で、海から水蒸気が大量に上がってきています。積乱雲というのは、水蒸気が多ければ多いほど強度が増し、より強い積乱雲であるほど竜巻も強くなりますから、牧之原を始めとした強力な竜巻の原因となるんです。
一般的に竜巻は9月にもっとも多く発生します。しかし今年の猛暑を考えると、10月も9月と同じくらいの気温になることが考えられますから、私は本格襲来は10月と見ています」
では、具体的に巨大竜巻が発生する“危険地帯”はあるのだろうか。立花教授が続ける。
「竜巻は海で発生しがちなので、海に囲まれた日本は、言ってしまえばどこもかしこも危険地帯です。しかし、いちばんはやはり関東平野でしょう。
アメリカは、日本と比べ物にならないくらい平野が広く、さらにロッキー山脈という大山脈がある。こうした『山があってかつ平野が広い』場所は、山に沿って上空に寒気が入ってきやすく、平野部では日照を受けて空気が温まりやすい。冷たい空気と温かい空気が入り混じりやすいので、気流が乱れやすくなり、竜巻が発生しやすいんです。
関東平野は、まさにこのミニチュア版ですね。南と東は海で、北と西は山ですし、なんといっても日本一の平野です。同じ理由で次に危険なのは、水温が高い黒潮に面している太平洋側でしょう。特に、濃尾平野、静岡沿岸、高知平野、宮崎平野などでしょうか。
さらにその次には、日本海側の平野部が危険視されます。日本海側は、冬に豪雪を伴う竜巻が起きることがあります。具体的には、新潟平野と山形県の庄内平野が、大きな平野部として挙げられます。これも温暖化の影響で海水温が高くなっていることが原因に挙げられるでしょう」
では、こうした竜巻の予兆のようなものはあるのだろうか。
「竜巻が起こる場所は決まって低気圧になるため、電線などの音が鳴るんです。あとは耳鳴りがしたり、飛行機に乗ったときのように耳が詰まることもあります。こうした感覚になったら、竜巻が直ぐそばまで来ているサインで,数分以内に竜巻に遭遇する可能性がありますから、すぐに逃げて下さい。
後は、真っ黒い雲が見えたり、急に冷たい風が吹いたり、雷が頻繁に鳴ったら、積乱雲の発生の予兆ですから、これに伴って竜巻が発生する可能性があります。竜巻は箇所としては小さすぎるため、気象レーダーでは見えないんです。だから、こうした予兆を個人でキャッチしていくしかないんですね。
竜巻が来ると窓ガラスが割れますから、まずは窓がない部屋に逃げ込むことです。いちばんよいのはトイレや浴室、廊下などです」
これからも発生し続ける可能性が高い“アメリカ級”竜巻、気が抜けない秋になりそうだ。