
授賞式で用いたパネルを手にした北里大学の馬渕清資名誉教授
ユニークな研究に贈られる世界的な賞なのに、イロモノ扱いされがちなイグ・ノーベル賞。じつは、日本は2007年から連続で受賞者を輩出する「常連国」だ。その後、彼らにはどんな恩恵がもたらされたのか? 笑いの裏にある思い、そして人生の転機を聞いた!
北里大学の馬渕清資名誉教授(74)が、イグ・ノーベル賞物理学賞に輝いたのは2014年のこと。床に置かれたバナナの皮を、人が踏んだときの皮と床との間の摩擦量を測定した功績によるものだ。
「人工関節の研究を40年近く続けるなか、1980年代に人間の関節の滑らかさを『まるでバナナの皮のようだ』と書いたことがありました。ところが調べると、バナナの皮がどれほど滑るのかを検証した人は皆無でした。そこで、自分で確かめることにしたんです」
協力者はおらず、馬渕名誉教授自ら実験を重ねた。床面に摩擦測定装置を固定し、その上にバナナの皮を置き、ひたすら自らの足でバナナの皮を踏み続けた。結果、バナナの摩擦係数は0.066。普通の床面より6倍も滑りやすいという結果を導いた。
「日本の研究者は、論文をまず日本語で書き、その後英訳することが多いんですが、この論文は最初から英文にして、学生には『これでイグ・ノーベル賞を狙っているんだ』と、半分冗談で話していました」
論文を発表したのは2012年。翌々年になって、受賞の知らせが届いた。
「1分間のスピーチでいかに盛り上げるかを考えました。アメリカでも人気の怪獣がバナナの皮で滑るイラストを描いてパネルを作り、バナナを手に持ち『ホワット イズ ディス?』と問うと『バナナ!』とコール&レスポンスがきた。その時点で、『もらった!』と思いました」
成果は、高校の英語の教科書に写真入りで掲載された。
「望外の喜びでしたね。それに、受賞前は招待講演の依頼は年に1回程度だったのが月1回に急増し、昨年には通算100回を超えました。講演を聴いた東邦大学の堀裕一教授からの提案で、コンタクトレンズの摩擦測定に関する共同研究を進め、世界に類のない測定装置の開発に成功。その経過を英文論文にまとめることもできました」
誰もやらないことへの挑戦が、受賞や出会いにつながった。
写真・福田ヨシツグ
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