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精巣ガンを克服した男「100kmマラソン」に挑戦し続ける

ライフ・マネー 投稿日:2018.06.03 20:00FLASH編集部

精巣ガンを克服した男「100kmマラソン」に挑戦し続ける

 

 日本人の2人に1人がかかるガン。予防には運動が大切、ひとたび発症すればつらい闘病を強いられ、今度は運動どころではなくなる……。

 

 そんな“常識”が覆されつつある。近年、中強度以上のきつめの運動が、ガンの再発・転移を抑制し、死亡率を下げる可能性が指摘されている。

 

 まだ研究が始まったばかりのため、詳細なメカニズムは不明だが、小規模な研究では乳ガン、大腸ガン、前立腺ガンと一部の肺ガンにおいて、運動による再発抑制効果が確認されているのだ。

 

 生理的な作用だけでなく、ストレスの解消や、目標への達成感なども、心身に好影響を与えるのでは、と考えられている。

 

 国内でも、ガンサバイバー(ガンと診断された、すべての人々を指す言葉。治療中、寛解・療養中、完治などの状態を問わない)に対して、積極的に運動をすすめる医師が増えている。

 

 ガンサバイバーの相互支援組織「NPO法人・5years」の代表理事を務めている大久保淳一さん(53)は毎年、100キロの距離を走るウルトラマラソンに出場する、スーパースポーツマン。じつは彼自身も闘病経験がある、ガンサバイバーの一人だ。

 

 大久保さんがステージIIIbの精巣ガンと告げられたのは2007年、42歳のときだった。外資系証券マンとして第一線で働きながら、家族を大切にする生活。

 

 当時から走ることが趣味で、週に5日はランニングを欠かさなかった。「健康には人一倍、自信があった」はずだったが……。

 

「すでにあちこちに転移していたため、局所のガンを取り除いた直後から、抗ガン剤治療が始まりました。さらに、腹部周辺のリンパ節を取り除く開腹手術、併発した間質性肺炎の治療で再入院と、過酷な闘病生活が続きました」(大久保さん・以下同)

 

 手術直後は、歩くことさえ困難な日々。抗ガン剤治療はあまりに苦しく、横になって吐き続けるしかなかったという。そんな大久保さんを支えたのは、一人のスポーツ選手の存在だった。

 

「米国の自転車選手、ランス・アームストロングです。25歳で僕と同じ精巣ガンを患い、再起不能といわれました。しかしそれを克服し、自転車レースに復帰しました。僕にとって英雄です」

 

 たとえ病気になっても、再び高みに上れるーー。アームストロングは、そのことを体現してくれた。大久保さんも同様に、「いつかあのスタートラインに戻る」という決意を胸にした。

 

「あのスタートライン」とは、北海道のサロマ湖周辺で毎年6月におこなわれている「サロマ湖100kmウルトラマラソン」のこと。大久保さんは発症前からこのレースに出場し、4回、完走していた。

 

 退院から1年半後、大久保さんはまず、ウオーキングから再開する。外周500メートルの公園を歩くのだ。しかしそれだけで、免疫力が落ちているので高熱を出してしまう。それでも少しずつ距離を伸ばし、トレーニングを続けた。

 

 そして、ガン発覚から3年半後の2010年。大久保さんは、長野県茅野市で開催された「八ヶ岳縄文の里マラソン」で、ハーフマラソンの部に出場する。結果は最下位。記録は、病気の前の2倍近く遅い、3時間1分だった。レースの制限時間すら守れなかった。

 

「マラソンはもう無理なのだと、自分自身を納得させるしかありませんでした。ところが、丸4年が過ぎたある日、再発の可能性を示す腫瘍マーカーの値が、上昇したんです。

 

 結局、それは一過性のものでしたが、このとき、自分に残された時間は無限ではないと思い出しました。せっかく生かしてもらったのだから、自分と約束をしたウルトラマラソンに復帰してやる、と」

 

 大久保さんは、練習を再開。3年後の2013年6月には、本当にサロマ湖畔のスタートラインに立つことができたのだった。レース記録は12時間39分41秒。ガン発症前に完走した4度のレースを含め、2番めの好記録だった。

 

 そして、2015年6月の同じ大会では、12時間3分9秒の記録で完走。ガンの発症前の記録も更新し、自己ベストをマークすることができた。翌年には、さらに記録を更新している。

 

 大久保さんの次の目標は、毎年4月にアフリカで開催される「サハラ砂漠マラソン」に2019年は、参加すること。サハラ砂漠の中を、食糧や寝袋を持って約230キロ走るもので、「地球でもっとも過酷なレース」といわれる。

 

「灯りもなく、空気が乾燥しているので、ものすごく美しい星空が見られるそうです。そんな星空の下を走るなんて、想像もつかないですよね」

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