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社員旅行のお金は「課税」されることもされないことも…会社が従業員に与える「フリンジ・ベネフィット」をめぐる判断

ライフ・マネー 記事投稿日:2026.08.22 16:00 最終更新日:2026.08.22 16:00

社員旅行のお金は「課税」されることもされないことも…会社が従業員に与える「フリンジ・ベネフィット」をめぐる判断

 

 

 給与所得とは、ひと言でいうと、「勤務関係に基づく報酬」だと説明されることがあります。このような定義がされるのは、勤務関係のある勤務先からもらった利得(経済的利益)は、原則として「給与所得」にあたると考えられているからです。

 

 これだけだと、イメージがまだわかないかもしれません。わかりやすい例を挙げると、「通勤手当」です。通勤手当は「給与所得」にあたるけれども、通常の範囲内のものであれば「非課税所得」にあたるため、所得税が課せられません(所得税法9条1項5号)。

 

 このような理解に立つと、勤務先から得ている経済的価値(利得)というのは、じつはたくさんあると考えることができます。たとえば、使用者(会社など)が負担するレクリエーション費用、創業記念などの式典等に際して与えられる記念品、使用者が取り扱う商品などを従業員に値引きして販売した場合の値引き分……などです。

 

 こうした通常の給与・賞与のほかに従業員に与えられる給付のことを「フリンジ・ベネフィット」といいます。「追加的給付」「現物給与」などともいわれ、勤務関係にある従業員などが、使用者(会社など)から、本来の給与等以外に追加して支給される、金銭や物、経済的利益のことです。

 

「包括的所得概念」で考えると、あらたな経済的価値の流入があれば「所得」になりますから、これらが勤務関係に基づき与えられたものだと認定されれば、それは「給与所得」として課税されることになるはずです。

 

 しかし、こうしたものについてもすべて課税するというのは、感覚的になじまないと思います。実際、ここに挙げた例については、いずれも、所得税基本通達の定めがあり、課税実務上は「課税しなくて差し支えない」という扱いがされています。

 

 ただし、これはあくまで「通達」の定めですから、純粋に所得税法だけを解釈すると、原則として給与所得にあたるものがほとんどなのです。

 

■香港は○、ハワイは×

 

 フリンジ・ベネフィットの一つに社員旅行の費用があります。過去には、これに対する課税の是非をめぐって裁判で争われたこともありました。その一例が「ハワイ5泊6日事件」と「香港2泊3日事件」の2つのケースです(岡山地裁昭和54年7月18日判決・行集30巻7号1315頁、大阪高裁昭和63年3月31日判決・訟務月報34巻10号2096頁)。

 

 ここで問題になったのは、使用者(会社)が負担したレクリエーション費用です。社員旅行で、ハワイに行く、香港に行く。そうしたときに、会社が負担した費用は、従業員にとって「あらたな経済的価値」になりますから「所得」にあたるはずですし、勤務関係に基づき支給されるものなので「給与所得」になるはずです。

 

 しかし、社員旅行というのは、勤めている人にとって、強制的要素があります。家族だけで、恋人と、あるいは仲のいい友だちと行く旅行とは意味が違います。それにもかかわらず、課税するのはどうなのか――こういう問題が起きたのです。

 

 裁判所は、いずれの事件においても、レクリエーション費用が「給与所得」にあたることを前提にしつつ、通達の規定が「レクリエーション行事が社会通念上一般的に行われているものと認められる場合には、例外的に課税しなくて差し支えない」としている点もふまえながら、具体的な判断を示しました。

 

「香港2泊3日事件」の判決を引用します(前掲大阪高裁昭和63年3月31日判決)。

 

《本来、使用者が役員又は使用人の参加を求めて行うレクリエーション行事につき、その費用を使用者が負担することは、レクリエーション行事に参加した使用人らにとつてはその分の経済的利益を受けることになるから、右利益相当分は使用人ら個人の所得として課税されるべきであるが(所得税法36条1項)、本件通達は、「使用者が役員又は使用人のレクリエーションのために社会通念上一般的に行われていると認められる行事の費用を負担することにより、右行事に参加した使用人らが受ける経済的利益については課税しなくて差支えない。」旨規定し、税務当局は右の経済的利益については非課税とする取り扱いをしている。》

 

 このあと裁判所は、この「課税しなくて差支えない」と規定している通達について、

 

(1)雇用契約上、事実上は参加に強制的な面があること
(2)与えられた経済的利益を自由に処分できるわけでもないこと
(3)レクリエーション参加で従業員が受ける経済的利益は少額であるのが通常であること
(4)その評価も困難なことが多いこと
(5)一般的に行われているレクリエーション行事に課税するのは国民感情からも妥当ではないこと

 

 などを理由に、「合理性」があると判示しました。

 

 そのうえで、「旅行が本件通達にいう社会通念上一般的に行われていると認められるレクリエーション行事にあたるか否か」について、「旅行の企画立案者・主催者、旅行の目的・規模・行程・従業員の参加割合、第一審原告(使用者)及び参加従業員の負担額、両者の負担割合等を総合的に考慮すべきである」といった判断基準を示しました。

 

 結論としては、「香港2泊3日事件」の場合、1人あたり3万円弱のレクリエーション費用は「給与所得」として課税しないという判断がされました。

 

 これに対して、「ハワイ5泊6日事件」はどういう判断がなされたのでしょうか。

 

 こちらは会社の費用負担が従業員1人あたり18万6500円で、これは「給与所得」として課税されるという判断がされました。

 

「本件ハワイ旅行について、前記のような日程、費用等を考えると、それが企業の福利厚生事業たる慰安旅行として、社会通念上一般的に行なわれている性質・程度のものとは到底認めることができない」という理由からでした(前掲岡山地裁昭和54年7月18日判決)。

 

 

 以上、木山泰嗣氏の近刊『[新版]分かりやすい「所得税法」の授業』(光文社新書)をもとに再構成しました。法律アレルギーでも税金アレルギーでもすらすら読める、所得税法の講義です。

 

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出典元: SmartFLASH

著者: 『FLASH』編集部

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