
「空調服」の試作品を手にする開発者の市ヶ谷弘司さん(写真・梅基展央)
酷暑対策の必需品として、工事現場だけではなく日常生活でも利用者が増えている「空調服」。いまでこそ、さまざまなメーカーが販売しているが、発明したのは市ヶ谷弘司さん。元ソニーの技術者で、現在は株式会社空調服の会長だ。
「ソニーを辞めたのは41歳のとき。管理職っていうのが苦手なんですよ。それで起業したわけです」
1990年代、仕事で訪れた東南アジアで、多くの高層ビルが建設されているのを見て、ふと思ったという。
「ちょうど地球温暖化ということが言われ始めた時期です。このままビルが建設されて、エアコンが大量に使われたらどうなるのか。地球が白ければ、太陽光を反射して温度が下げられるのではないか。地球の表面の約7割は海ですから、海水を真っ白にできないか。そんな妄想です」
そのアイデアは実現しなかったものの、別の形で暑さと立ち向かうことになる。
「会社では、ブラウン管関連の機械を開発・製造・販売していたんですが、液晶の時代になり、別の道を探す必要がありました。そこで、体を冷やすものが作れないかと考え始めたんです」
1999年の初期モデルは、タンクから水を服に散布し、気化熱を利用するもの。しかし、水漏れが多く失敗した。
そこで、水の代わりに汗を蒸発させることを思いつく。ファンから外気を取り込む「空調服」の原点だ。試行錯誤の末、2004年には製品化し、販売を開始する。
「目新しさもあり、テレビでも紹介されて、けっこう売れたんです。でも当時は、断線など故障率が高く、修理品の山でした。ただ『金を返せ』というのはなくて『直してくれ』という声が多かったんです。また使いたいということです」
製品はどんどん改良され、2010年ごろからは多くの建築現場で使用されるようになる。
「売れるまでは資金繰りにも苦労しました。しかしまあ、私が発明したものが現在、こうやって世の中に広まっている。苦労した甲斐がありました」
新しいものを生み出すために、必要なことを聞いた。
「技術というのは突き詰めていくと、どんどん幅が狭くなっていくんですよ。だから、それとは別の道を探すんです。よく見れば、そこに太い道があり、そっちを通ったほうがいいものを作れることもある」
市ヶ谷さん、じつはいまも「地球温暖化を止めるための新しい武器」を開発中だという。
「今年の秋には発表できるかもしれませんよ」
情熱は、衰えない。
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