長崎県では、墓前で花火や爆竹を鳴らして先祖を供養する(写真・駄道賢剛)
7月2日、深夜0時過ぎ。線状降水帯が発生して猛烈な雨が降るなか、収集車と作業員が、寝静まった街でほとんど音もたてずに家庭用ごみを回収していた。福岡県の福岡市では、家庭ごみ収集は夜間が基本なのだ。
忙しい朝の決まった時間までに出しておく必要がなく、カラスによるごみ荒らしへの対策にもなる。これが、福岡の「お得すぎる謎ローカルルール」である。
「明治から昭和の初期にかけてのごみ収集は農家などの副業で、農作業や本職にかかる前の早朝におこなわれていた名残りといいます。福岡の市街地は朝の交通量が多いことから、深夜に作業することが収集・運搬にもっとも効率的だとされ、昭和30年代のモータリゼーション以降に定着しました」(ふくおか環境財団 事業部 事業調整課・村野陽子さん)
昼間に走る収集車を減らせることも含め、福岡の都市生活に合わせた仕組みなのだ。
このように、ローカルルールは県民性や風土と切っても切り離せない。北海道の冬は、家の中まで凍れる。群馬ではからっ風が吹きつける。そんな環境から、独自の「お得ルール」が生まれている。
北海道の賃貸住宅では、室内の空気を汚さない寒冷地向け灯油暖房「FF式ストーブ」がほぼ標準設置されている。暖房設備費用や灯油代を家賃に含めたり、冬季だけ暖房費を別途徴収したりする。それでも、自前で暖房器具を揃えるより懐ろに優しい。
■眼鏡店、クリーニング店…群馬ではなんでも「ドライブスルー」
県人口約190万人に対して自家用車は約138万台という群馬県は、車なしでは暮らしにくい地域が多い。だからか、飲食店だけでなく、眼鏡店や調剤薬局などにもドライブスルーが設けられている。からっ風が吹く冬の日に、わざわざ車を降りて店まで歩く必要がないのだ。前橋市内のクリーニング店従業員に聞いた。
「正確に統計を取っているわけじゃないですが、天気に関係なく、我々のお客様も半数ぐらいはドライブスルーです」
同じ「便利」でも、土地によって中身が異なる。また、「困り事」が違えば、それを解消する仕掛けも違う。
酷暑の東京都で増えているのが、マイボトルに無料で給水できるスポットだ。すでに約1000カ所も設置されているため、飲料代を節約できるばかりか、ペットボトルごみの減量にもつながる。
一方、岐阜県には、最安50円で飲料を買える自販機がある。コンビニが都市部ほど多くない地域だが、販売データをもとに必要な商品だけを補充することで、低価格を実現しているという。
宮城県だと、新年の風物詩が「仙台初売り」。景品表示法の特例によって豪華な景品が認められているほか、過去にはフェラーリの福袋まで登場した。仙台を拠点に会社員・工作プロデューサーとして活動する「あきばこさん」は、今年の初売りに参戦した。
「駅前のイービーンズというテナントビルで朝から並んでいると、まずホットコーヒーが配られました。入場時には、トートバッグやお菓子、カイロ、入浴剤などが入った福袋や、でん六豆まで無料でもらえました。買い物をすると白石温麺などの景品もつきました。現金つかみ取りにも挑戦して、672円ゲットしました(笑)。買った商品以上にオマケを楽しむのが、仙台初売りなんです」
買い物はお得と直結しがちだが、レジャーにおいても然り。毎年6月15日の千葉県の「県民の日」は県内のマザー牧場や鴨川シーワールドなどの大型レジャー施設の多くで、子供の入場料が無料になる。残念ながら、東京ディズニーリゾートは割引すらしていないが……。
ディズニーキャラの代わりに国宝級の仏像オールスターが揃っている奈良県では、県立の美術館や博物館などで18歳未満や高校生の観覧料が無料になる。
愛知県では開店の祝い花の持ち帰りが許されている。花が早くなくなるほど「商売繁盛」とされ、店にとっても縁起がよい。持ち帰る側も花を買わずにすむ。いわば、お下がり文化のバリエーションだ。
福島県のいわき市などの小学校で使われる膝当ては、実用から生まれた工夫。雑巾がけの際、衣服やタイツの傷みを防ぐ。家庭で余り布などを使って手作りすることも多く、こちらも立派なリサイクルだ。
■香川は新築した家の風呂で「うどん」を食べる
暮らしの知恵だけが、ローカルルールではない。長崎県では、お盆に墓前で花火や爆竹を鳴らして先祖を供養する風習がある。親戚の子供には、花火代として “お盆玉” のようなお小遣いを渡す風習も。1917年創業の立岩商店は、そんな花火文化とともに歩んできた専門店だ。600種以上もの花火が並ぶ店内には、墓参りのために買いに来る客が圧倒的に多いという。
「長崎といえば、爆竹や花火を鳴らしながら精霊船を曳く『精霊流し』が名物ですが、最近は矢火矢(やびや・ロケット花火)はNGに。でも、お墓では原則なんでもOKです。爆竹も付き物で、耳栓が意外と売れるんですよ」(金城枝利子店長)
企業発の「お得」が、定着した例もある。兵庫県の「神戸ノート」だ。神戸の景観をあしらった表紙で知られる1952年発売の学習帳で、小学校入学時などに無償配布されるケースもある。
「戦後の物資不足のなか、市内の小学校校長や教職員たちからの『安くて高品質なノートを』との依頼を受けて生まれ、正確には “関西ノート学習帳” といいます」(発売元の関西ノート・丹野裕介さん)
土地によって「お得」の中身は変わる。沖縄県でその象徴となるのが、自動車保険料が安いこと。自賠責保険料は沖縄本島の自家用乗用車なら24カ月9960円。本土の1万7650円より7690円、約44%も安い。2017年に沖縄へ移住し、現在は本島で経営サポート業を営む深井弘之さんも、車を生活に欠かせないものと感じている。
「私は勤務地までバス通勤なので、今はコンパクトミニバンを1台所有していますが、今度買い換えるとしたら軽にするかもしれません。少しでも維持費を抑えたいという意識があるんです」
実際、沖縄の軽乗用車比率は全国的にも高い。鉄道網がない沖縄だからこそ、保険料をはじめ維持にかかる負担を軽くする仕組みがあるのだ。
香川県の「初風呂うどん食え」は、「うどん県」でも西部など一部地域に伝わる「謎ルール」だ。
新築や改修した家の風呂に年長者から順に入り、湯船でうどんを食べる。色彩講師の工藤真紀さんは10年前、夫の実家が風呂をリフォームした際、息子に体験させた。
「どん兵衛ですけどね(笑)。夫の生家は東讃の高松なので、この風習はありません。私は中讃のまんのう町(旧仲南町)出身だから、小4か小5のときに経験しています」
そこには、風呂を新しくすることが家の一大事だったころの暮らしと、うどんが暮らしの隅々まで入り込んできた香川の食文化が重なっている。さらに「太く長く生きられるように」と長寿まで願うのだから、まさに一石三鳥だ。
新築をめぐる風習なら、宮崎県にもある。棟上げで屋根から餅や菓子を撒き、集まった近所の人たちが拾う行事を「せんぐまき」と呼ぶ。家を建てる家族の祝い事を、地域の人ともシェアするのだ。
フリーアナの赤間瞳さんは県内の生まれだが、幼少期から他県で過ごし、中3になって故郷に戻ってきた。以来、この風習を楽しみ、2019年には新築した友人宅のせんぐまきに参加したという。
「お餅の中にはお金も入っていて、子供たちはお小遣い稼ぎになるので一生懸命拾います(笑)。宮崎では、スーパーの開店や周年記念などで、せんぐまきをする文化があります。ハシゴして楽しむ子供たちもいるほど、人気です」
独自の事情で生まれたルールが、いつからか「うちの県では普通」になった。それは、他県民から見るとお得だったり羨ましかったりする。ここに、数字では測れない県民性が表われる。
取材/文・鈴木隆祐
![Smart FLASH[光文社週刊誌]](https://smart-flash.jp/wp-content/themes/original/img/common/logo.png)







