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思想家・武道家の内田樹が、医療経済学者の兪炳匡氏と「日韓連携」をめぐる対談をおこなった。「日韓連携」とは、日本と韓国がEUのような連邦を形成するというアイディアだ。このアイディアの可否について話し合うなかで内田から語られたのが、「日米安保廃棄の可能性」だった。
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アメリカがどんどん衰退するような状況で、日本はアメリカとどう付き合うのかを考えなければいけない。僕は『フォーリン・アフェアーズ・リポート』を定期購読しているのですが、これはアメリカの保守派の考え方を知る上では恰好の資料です。
そこからわかることの一つは、アメリカにとって韓国と日本は「対中国の手駒」だということです。中国と何かあった時には日韓両国に前線で戦ってもらい、できるだけ米軍はコミットしたくない。アメリカの保守本流はそう考えている。
でも、それは当たり前なんです。台湾と韓国と日本に前線で中国軍と戦ってもらって、中国の軍事力を殺(そ)ぐ。米軍本体はグアム=テニアンの線まで後退して、軍を温存する。それがアメリカの国益を最大化する対中政策の合理的な解なんです。そのためには「手駒」を消耗品代わりに使いたい。
実際に「アメリカは勝てない戦争に固執してはならない」というタイトルの論文(2025年5月号)は、アメリカは台湾の防衛力整備を支援して、台湾を「ヤマアラシ」状態にして、「短期間で制圧される事態を防ぎ、中国軍を長くコストのかかる戦争に引きずり込み、政治的和解への道を切り開く」ことを提言しています。
「最善の選択肢は、無人の航空機や水上艦艇、潜水艇などを使って軍事物資を供給することだ。これらが中国軍の標的にされても、米兵に死者が出ることはなく、戦争への介入を避けられる」
「(米軍が遠く太平洋の彼方まで引けば、)中国は、こうした分散した遠隔地を攻撃するのに必要な長距離ミサイルをさほど大量には保有していないため、これらの拠点の方が安全性は高い」
「中国本土から遠く離れた、より安全な基地で米軍のプレゼンスを守れば、北京が台湾有事を拡大するのを抑止し、中国による台湾支配を含む、いかなるシナリオでも、北京がアジアで覇権を確立するのを阻めるだろう」
なんと正直な方たちでしょう。アメリカは中国と、ことを構えたくない。米兵にも死んでほしくない。でも、中国のアジアでの覇権確立は阻みたい。「痩せたい、でも食べたい」みたいなジレンマです。
だから、アメリカにとって合理的な解は、「遠く離れた、より安全な基地」から台湾、韓国、日本に向かって「お前たちだけで中国を抑えろ。足りない装備は送ってやるから頑張れよ」と告げることである、と。この論文の著者であるアナリストはそう言っているわけです。
ただ、あまり露骨に「中国が台湾に軍事侵攻しても、米軍はコミットしない」ということがアメリカの方針だと国際的に明らかにしてしまうと、むしろ台湾侵攻を中国にそそのかすリスクがある。伝統的な「戦略的曖昧さ」はそこから出てきた苦し紛れの秘策です。
「台湾に何かあったら米軍はコミットするかもしれないし、しないかもしれない」というのが「戦略的曖昧さ」です。要はアメリカはできるだけコストを負担せず、中国だけを長く、コストのかかる戦争に引きずり込むことができるなら、アメリカとしてはOKということです。
アメリカにとって日本と韓国はこの「長く、コストのかかる戦争」に中国を釘付けにするために必須の「手駒」なんです。台湾がどうなろうと、朝鮮半島がどうなろうと、日本列島がどうなろうと、アメリカは別にどうでもいいんです。アジア人が何人死のうと、米兵が一人も死なずに中国の軍事力が殺がれるなら、アメリカにとってはOKなんです。
これは、まことに「その通り」というほかない。こういう本音を論文というかたちではあれ、正直に書いてくれるアメリカのアナリストたちのストレートさに僕はむしろ敬意を抱きます。だって、なるほどアメリカ人はそう考えているのかとわかれば、日本人としても対策を考えることができますから。
■日米安保廃棄の可能性
アメリカはこのあと米韓相互防衛条約、日米安保条約を廃棄する可能性があります。こんなことを言う人は、日本の外交や国際政治の専門家にはほとんどいませんけれど、僕は可能性としてはあり得ると思う。どちらの条約も締結国の一方が1年前に通告すれば廃棄できる。
アメリカは在韓米軍をかなり前から段階的に縮小しています。朝鮮戦争以来、在韓米軍司令官が保持していた戦時作戦統制権も韓国に返還するつもりだとヘグセスは語っています。
戦時作戦統制権が韓国軍に返還された場合、仮に38度線で何か偶発的な軍事衝突があったとしても、戦闘行動は韓国軍が主導することになります。米軍がその戦闘にコミットするかどうかは「戦略的に曖昧になる」ということです。これは米韓相互防衛条約の「空洞化」の一歩だと僕は思います。
同じ理由で、アメリカは日米安保条約を廃棄すると通告してくる可能性があります。アメリカにとっては米中戦争を回避するためには「同盟国」をできるだけ少なくするという選択は合理的なんです。安保条約廃棄とまでゆかなくても、韓国の場合のように、「何か起きてもそこに米兵がいない」という状態を作ろうとする。
在日米軍基地は存在する。でも、日本と中国の間で何か起きた時に、そこには「米国市民が一人もいない」のであれば、米国民に死傷者は出ない。そうなれば、米国には参戦することに対して「リラクタント(消極的)になる権利」が発生します。
米国市民の被害者がいない戦闘になぜ米軍を投入して、米国の青年が血を流す必要があるのか。アメリカの国内世論は当然「参戦/非戦」で二分されるでしょう。憲法上、宣戦布告は連邦議会の管轄です。
これまでは大統領が勝手に宣戦を布告して、あとで連邦議会で「事後承認」を取り付けるということが繰り返し行われました。これは厳密には違憲なんです。合衆国憲法第1条第8節第11項には宣戦布告は連邦議会の権限であると明記してあります。
でも、実際には大統領が議会の承認抜きで軍事行動したことは枚挙にいとまなく、憲法は空洞化しています。でも、連邦議会はいつでも「違憲行為は止めろ」と大統領に反論する権利は保持しています。だから、「日本有事」になった場合に、大統領がこの時ばかりは「護憲」派に変じて、連邦議会での承認を求めるということは筋からいえば正しいんです。
でも、連邦議会で民主党と共和党が一致して「日本のために米中戦争を開始する」と即決するということは考えにくい。連邦議会で議論が紛糾しているうちに、「日本有事」は決着がついてしまいました……ということだってあり得る。
アメリカは、日韓台には「オレを頼らずに中国の西太平洋進出を抑えろ」と命令しておいて、米軍本体はグアム=テニアンの線まで撤退するというシナリオを描いている。これがアメリカにとって短期的には最も合理的な選択だからです。事実、これはアメリカがいま台湾に対してしていることそのままです。
でも、このアメリカの「撤退」シナリオの現実性について真剣に考えている人が日本の政治家にも官僚にも政治学者にもメディアにもいない。それが喫緊の安全保障上の論件であると言う人がいない。あるいは自衛隊は考えているかもしれませんけれど、決して口には出さない。
日米安保廃棄の可能性はあるんです。アメリカは日米安保維持と廃棄とどちらがアメリカの国益に資するかについてすでに計算を始めている。台湾を見ればわかります。でも、日本では「アメリカが日本を見捨てるかもしれない」というシナリオについては誰も考えようとしないんです。
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以上、内田樹氏・兪炳匡氏の共著『日韓連携』(光文社新書)をもとに再構成しました。いまこそ日韓が連携して、西太平洋に米中との等距離外交を展開する中立地帯を作るべきだ…2人の対談で見えてきたものとは。
■『日韓連携』詳細はこちら
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