
写真・AC
■同じ課題に、2通りの問いを投げてみる
ひとつの場面を想像してほしい。あなたは食品メーカーで新規事業の企画を任されている。チームで議論を重ねたが、方向性が定まらない。そこでAIを開く。
多くの人は、次のように入力する。
「食品メーカーの新規事業アイデアを10個提案してください。ターゲットは健康志向の30代女性」
AIは即座に、もっともらしいアイデアを10個並べる。プロテインスナック、腸活スムージー、グルテンフリー冷凍食品……。リストは網羅的で、市場調査も添えられている。あなたはリストを眺め、「これはよさそうだ」と思うものにチェックをつけ、次の会議に持ち込む。AIは優秀な回答装置として機能した。
では、同じ場面で問いを変えてみよう。
「我々が新規事業を考えるとき、無意識に前提にしていることは何か。ターゲットを30代女性に限定している理由は本当に妥当か。『健康志向』という言葉で、私たちは何を見落としているか」
AIの出力はまったく異なるものになる。「健康志向」という言葉が実は多義的であることが指摘される。たとえば身体的な健康、精神的な充足、社会的なつながり、環境への配慮などだ。
ターゲットを30代女性に限定した瞬間に、高齢者の孤食問題も、子どもの食育も、男性の食生活も視野から消えていたことが浮かび上がる。「食品メーカーである」という自社定義が、食以外の価値提供の選択肢を遮断していた可能性に気づかされる。
2つの問いかけの違いは明白だ。最初の問いでは、人間はAIの出力を「選ぶ」だけだった。しかし2つ目の問いでは、AIの出力を受けて人間が「考え始める」。前提が揺さぶられ、視野が広がり、「そもそも何を問うべきだったのか」という根本的な問い直しが起きる。AIに投げた問いの質が、返ってくる知見の質の上限を決める。
だが、2つ目の問いかけに対するAIの出力を「そのまま答えとして使う」のは避けてほしい。AIが指摘した前提のうち、あなたの胸に引っかかるものや「言われるまで気づかなかった」と感じるものだけを拾う。「なるほど、確かに」と冷静に受け止められるものは、多くの場合、すでにどこかで聞いたことのある指摘にすぎない。
自分の前提が本当に揺さぶられた瞬間の、あのざわつく感覚。それが、問いの更新の起点になる。
■3つの型をAI対話に実装する
枠組みそのものを問い直す「良い問い」とは、3つの型を持っている。
①視点の切り替え
②前提の疑い
③スケールの往復
の3つだ。この3つの型は、AIとの対話において強力な起動装置になる。ただし使い方にはコツがある。型をAIに「代行させる」のではなく、AIの出力を使って「自分の問いを揺さぶる」ために使う。この区別が決定的に重要だ。
①視点の切り替え
自分が立てた問いや企画案をAIに渡し、「この企画は、競合の経営者の立場から見たらどう映るか」「10年後にこの製品を使っている人は、今の企画をどう評価するか」「この施策の恩恵を受けない人は、何を感じるか」と求める。
AIは複数の視点を高速に切り替えて問いを再構成できる。人間1人が会議室で頭を抱えていても、顧客の視点、競合の視点、将来世代の視点を同時に持つことは難しい。AIはこの「視点の並列処理」に長けている。
②前提の疑い
企画書、報告書、事業計画書など、あなたが書いた文書をAIに渡し、「この文書が暗黙に前提としていることを5つ挙げてください」と求める。
AIは文脈から前提を抽出する能力に長けている。人間は自分の前提を自分では見られない。水の中にいる魚が水を認識できないように、自分の思考を規定している前提は、まさにそれが「当たり前」であるがゆえに不可視になっている。だからこそ、AIという「自分の常識を共有していない他者」による前提の指摘には価値がある。
③スケールの往復
個人的な課題をAIに相談するとき、「この悩みを社会構造の問題として捉え直すとどうなるか」と問う。たとえば「転職すべきか迷っている」という個人の悩みに対して、「日本の労働市場の構造的な問題として、この種の迷いはなぜ生まれるのか」と問い直してもらう。
すると、終身雇用制の名残や、転職市場の年齢差別、1つの会社に留まることを忠誠の証とする文化的前提など、個人の意思決定の背後にある構造が浮かび上がる。
これら3つの型を活用する際の注意点は、AIの出力をそのまま受け取らないことだ。AIが提示する複数の視点、複数の前提、複数のスケールの中で、あなたが最も「違和感」「居心地の悪さ」「あれ?」を感じたものに注目してほしい。
AIは多くを並列に提示できるが、それらのうち自分にとってどれが最も重要かを選ぶことは、人間の経験や倫理、そして身体感覚にしかできない。AIの出力を「答え」として読むのではなく、「自分の問いを揺さぶる素材」として読む。これが3つの型に共通する基本姿勢である。
※
以上、宮田裕章氏の新刊『AI時代の「問い」を立てる力』(光文社新書)をもとに再構成しました。医療とアートの現場に携わるデータサイエンティストが考える、「問い」のあり方とその技術。
■『AI時代の「問い」を立てる力』詳細はこちら
![Smart FLASH[光文社週刊誌]](https://smart-flash.jp/wp-content/themes/original/img/common/logo.png)







