
10月16日、緊急地震速報の取り消しについて謝罪する気象庁の担当者(写真・共同通信)
10月16日12時40分、気象庁は北海道から中部地方の広い範囲に緊急地震速報を出した。けたたましい警戒音とともに、テレビなどに表示されたのは「震源地・千島列島 M9.9」の文字。このとき「千島海溝巨大地震」を連想した人も少なくなかったはずだ。その8分後、速報は取り消され、誤報であることが判明。21日には気象庁の野村竜一長官が、会見で「予報精度を高めていきたい」と話したが、千島海溝を発生源とした巨大地震のリスクは現実に存在し、いまも高まりつつある。
「北海道東部の太平洋沖にある千島海溝、そしてその西側の日本海溝を震源とする巨大地震は、約400年の間隔で発生していることがわかっています。前回は江戸時代の1610年代から1630年代の間に起きた、M8.8程度の地震で、内陸4kmまで津波が達しています。それから400年が経過したいまは、いつ地震が起きてもおかしくない状態だということです」
そう語るのは、近著に『ニッポンの大地震』(ちくま新書)がある、京都大名誉教授で地球科学を専門とする鎌田浩毅氏だ。内閣府が設置した検討会は、千島海溝でM9.3、日本海溝ではM9.1という、東日本大震災のM9.0を上回る巨大地震の被害想定結果を2020年に公表している。それによれば、千島海溝地震では北海道えりも町や釧路町で最大28mの津波が発生。日本海溝地震では岩手県宮古市で30m、青森県八戸市で27mの津波が押し寄せるとされる。千島海溝地震では、津波による死者は約10万人、日本海溝地震では死者19万9000人という、衝撃のシミュレーションだ。
2026年2月には、北海道大や東北大の研究チームが、千島海溝に関する発表をおこなっている。5年間にわたり海底の測地観測をおこなった結果、17世紀の地震に匹敵する「ひずみ」が蓄積しており、「M8後半~9級の超巨大地震と、それにともなう津波の再来が切迫している可能性を示唆している」という。
「千島海溝沿いは、地震活動が少ない『地震空白域』とされていましたが、この研究によって、巨大地震を引き起こすエネルギーをため込んでいる状態だということが明らかになりました。じつは東日本大震災以前にも、宮城県沖の日本海溝付近でも同様に『地震空白域』が確認されていました。
10月16日の地震は、実際にはカムチャツカ半島付近で起きたM6.9の地震でした。北海道からはかなり距離があるため、直接、影響するものではありません。ただし、千島海溝はカムチャツカまで続いており、この付近で活動が活発化していることはたしかです。やはり、超巨大地震が起きる可能性が高まりつつあると考えるべきでしょう」(鎌田氏、以下同)
首都圏から遠く離れた場所で起きる地震とはいえ、その影響は全国に及ぶという。
「内閣府の想定では、経済的被害を千島海溝地震で約17兆円、日本海溝地震で約31兆円としています。東日本大震災と同様、あるいはそれ以上の影響があるのは間違いありません」
そして、鎌田氏が千島海溝・日本海溝地震とともに危惧する巨大地震が、「南海トラフ巨大地震」だ。
「ほぼ100年おきに、規則的に襲ってくるのが南海トラフ巨大地震です。次回は東海・東南海・南海地震の3つが同時に活動する連動型で、想定は東日本大震災よりも大きいM9.1です。広い範囲で強い揺れがあり、犠牲者総数は30万人、津波の最大高は34mに達します。経済的被害は290兆円以上で、東日本大震災の15倍です。
私は、この南海トラフ巨大地震が2035年の前後5年、つまり2030年代に必ず襲ってくると考えています。南海トラフ巨大地震が起きる40年前から、日本列島は地震の静穏期から活動期に入ります。その始まりが、1995年の阪神・淡路大震災です。その後、内陸地震が増加していき、約40年後に南海トラフ巨大地震が発生します。1995年の40年後が、2035年なのです」
各地で予測される巨大地震を避けることはできない。しかし、正しい知識を得て、事前に備えることで、被害は大幅に減らすことが可能だ。先日の緊急地震速報を「なんだ、誤報か」で済ますのではなく、「もし実際に巨大地震が起きていたら」と想定し、対応を考える機会にするべきだろう。
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