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【目指せ不思議スポット】謎のトンネル型遺跡「トンカラリン」
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2018.07.28 11:00 最終更新日:2018.07.28 11:32
熊本県の北部、清春古墳群の一角を担う江田船山古墳のすぐ近くに、柄杓のような入り組んだかたちで地中を這う謎の隧道「トンカラリン」が発見されたのは、1974年のことだ。
熊本市内から車で小1時間ほどの住宅街に近い立地で、近隣住民の間では以前から「山の中に奇妙な洞窟がある」と有名だったらしい。
全長は464.6メートル。台地の傾斜に向かって口を開けるそれは、自然の造形としては不自然に入り組み、一部には石組みの階段まである。連なるルートの中には大人が這ってようやく通れる程度の場所もあり、通路としてはやや不自然。
これはいったい誰が造ったものなのか。奇妙なことに、トンカラリンについては、一切の伝承や記録が残っていないのだ。
熊本県教育委員会が1978年に発表した調査報告書では、比較的近代まで使われていた排水路だろうという、なにやら穏便な結論にまとめられている。細い溝が一定のラインを形成する様子は、確かに排水路に見えなくもない。だが平成に入って、「排水路」説に致命的な弱点が判明する。
1993年、熊本県北部を見舞った集中豪雨は、既存の排水施設のキャパシティをはるかに凌駕し、各地に甚大な被害を及ぼした。ところがこの際、トンカラリンには一切の影響が見られなかったのだ。なぜなら、トンカラリンは周辺の排水をほとんど引き受けることなく、無傷のまま水害をやり過ごしていたからだ。
つまり、期せずして排水施設として用をなさないことが明らかになったトンカラリン。何事も先に結論があれば検証はスムーズなもので、排水機能に難ありとわかってから行なわれた再調査では、「排水路」説の矛盾点が次々に指摘された。気がつけば「排水路」説は木っ端微塵に打ち砕かれ、トンカラリンの正体を巡る論争は、振り出しに帰ってしまったのだった。
立地を見れば、トンカラリンは清原古墳群の中で最大規模を誇る、江田船山古墳につらなる台地の斜面に構築されており、これに関連する遺跡と捉えるのはごく自然なことだろう。だとすれば、江田船山古墳と同じく、5世紀末ごろに築造されたものと推測できる。
興味深いのは、トンカラリンの付近にある前原長溝遺跡から、3体のおかしな人骨が発見されている点だ。頭部が不自然に長い変形頭蓋骨で、人によっては宇宙人の遺骨と感じるかもしれない。調査によればこれは人工的に施された変化であり、いずれも弥生時代中期ころの、支配階級の女性の骨であるという。
古代インカのシャーマンに同様の風習が見られることを踏まえれば、こうした骨が間近で見つかることからもしても、やはりトンカラリンは祭祀や儀式に用いられた宗教的施設である可能性が高いのではないか。
先の熊本地震以降、トンカラリンの一部は崩落を懸念して立ち入りが禁じられているが、謎のベールに包まれた不思議な遺構のムードは十分に体感できるはず。
現地に立つ古い案内板に、「皆さんも、是非、この謎解きに挑戦して下さい」とあるように、自分の目で新たな可能性を探ってほしい。
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以上、友清哲氏の新刊『消えた日本史の謎』(知恵の森文庫)から再構成しました。謎の構造物、おかしな物体、奇妙な伝承、未解明のパワースポット…不思議をめぐる旅の記録です。