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なぜ「サプライズ」がヒット商品につながるのか「脳」が教えてくれる
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2018.08.27 11:00 最終更新日:2018.08.27 11:00
2017年のヒット商品に、「アネロ」の口金リュックがある。
口金リュックというと耳慣れないが、要はガマ口とリュックサックを結合させたようなもので、荷物を入れる部分がぱっくりと大きく開く。年間320万個売れたという。
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ぱかっと口の開くリュック。これは「ありそうで、なかった」ものだ。アネロの「意外性」は外見だけではない。使ったことのある人ならわかると思うが、実際に使ってみると、本体内部の容積はかなり大きい。これがもうひとつの「びっくり」ポイントである。
ノートパソコンがすっぽり入って、なおかつ何泊分かの下着を入れる余裕が十分ある。ポケットもたくさんあり、傘を入れたり常備薬を入れたり、いろいろ使えるのだ。
こうした、予測よりも良い方向へのズレ、すなわち「サプライズ」は、昨今の商品開発やマーケティングでは非常に大事なことと考えられている。
とくに、小さな企業が大企業に太刀打ちするには、大企業にはできないことをやらなくてはならない。そのカギは小さな企業ならではの顧客に密着したサービスだ。
そういうサービスには「あなただけに提供します」という「オーダーメイド型」、思いもよらない体験を提供しますという「サプライズ型」、あなたと共に新しい価値を作っていきましょうという「コラボレート型」がある。ここではサプライズについて考えてみたい。
サプライズがなぜヒットにつながるかというと、サプライズが意欲(モチベーション)を高めるからである。サプライズからモチベーションが生まれることを示した古典的な実験がある。
1970年代に行われた実験で、舞台は幼稚園だ。子供がお絵かきをしている。「報酬を予告するグループ」にはこのように言う。
「お兄さんが絵を描くのを手伝ってちょうだい。上手に手伝ってくれたら大きな金色の星ときれいな赤いリボンのついたメダルをあげますよ。そのメダルにあなたのお名前を書いてあげましょう」
「予告しないグループ」には、ただ単に「お兄さんが絵を描くのを手伝ってくれる?」とだけ言っておく。この子たちは後で思いがけずメダルをもらえることになる。比較対照のグループには何も言わず、メダルもあげない。
さて、そのお絵かきを手伝うのが終わり、子供たちは実験条件に従って星とリボンのついたメダルをもらったりもらわなかったりする。
その1週間から2週間後に、自由遊びの時間に自発的に絵を描くかどうかを観察してみる。
そうすると、一番熱心に絵を描いたのは、報酬を予告せずに突然メダルをあげたグループだった。その次が何も予告せずに何もあげなかったグループ、一番熱心でなかったのが報酬を予告しておいて、予告通りにメダルをあげたグループであった。
つまり、予告通りの報酬が手に入っても、あまりうれしくない。「思いがけないプレゼント」がうれしい。そのうれしさがモチベーションを高める。モチベーションを高めるには「サプライズ」が効くのである。
サプライズでモチベーションが掻き立てられるのは動物が持っている普遍的な性質だと言って良い。
これまた古い実験だが、ネズミ(ラット)が廊下を走って行くと、その先に餌が置いてある。餌をたくさん置いておくと速く走る。少ししか置いていないとゆっくり走る。このあたりは現金な動物なのである。
ここでその報酬(餌)の量を突然変えてみる。
「少ない」から「多い」に変えると、俄然、速く走るようになる。それはもともとたくさん置いてあったときよりも速い。
「多い」から「少ない」に変えると、走行スピードは落ちる。最初から少なかったときよりもさらにゆっくりになる。
つまり、もともとネズミはネズミなりに報酬の量を予測して走行スピードを調節していた。ところが、報酬の量が変わるとその調節をやり直した。そのときにオーバーシュート(行きすぎ)が起こるのだ。
ここから人間が働くためにも「昇給」が大事だとわかる。実のところ、もともとのベースが高いか低いかはたいした問題ではない。「アップ」、それも「サプライズアップ」がカギである。
――こうした、「脳」を見て無意識のニーズを探るのが新しい「ニューロマーケティング」なのだ。
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以上、廣中直行氏の新刊『アップルのリンゴはなぜかじりかけなのか? 心をつかむニューロマーケティング』(光文社新書)を元に再構成しました。脳科学が導いた新商品ヒットの7つの方程式を公開!