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【目指せ不思議スポット】滝壺に浮かぶ朱塗りの杯
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2018.09.10 16:00 最終更新日:2018.09.10 16:00
宮崎県の西側、鹿児島県との県境付近を流れる庄内川の一角に、地元で強力なパワースポットとして名を馳せる関之尾の滝がある。
なんでも、霊的なパワーに満ちたスポットなのだそうで、日没後にこの周辺で写真を撮れば、高確率で何かが写真に写り込むというから穏やかではない。
ネット上の噂話を少し渉猟してみれば、やれ「入り口付近のガードレールのあたりに出る」だとか、やれ「電話ボックスに必ず女の幽霊が写る」とか、その手の怪談は枚挙にいとまがないことがわかるはずだ。
しかし、関之尾の滝は日本ジオパークの認定を受け、「日本の滝100選」にも選ばれている名瀑である。古くから下流地域の水源として大切にされてきた場所で、少なくとも日中に訪れる分には、おどろおどろしさは微塵も感じない。
ただし、満月の晩には様相が一変するらしい。月が真円を描く夜にこの滝を訪れると、滝壺に朱塗りの杯が浮かぶのが見えるという、不思議な伝承が残されているのだ。
都城インターチェンジから20分程度。都市部からのアクセスは良好で、関之尾の滝は近隣住民ならずとも気軽に足を運べる景勝地と言える。
高さ18メートル、幅40メートルに及ぶこの滝は、大滝、男滝、女滝の3つで構成されている。
その滝壺を眼前に臨む吊り橋は1970年に設置されたものだが、平成に入ってから大規模な改修を経ているためか、あまり不安定さは感じさせない。橋の上からマイナスイオンを全身に浴びながら、水が織りなす轟音を楽しむのはオツなひとときとなるだろう。
さて、問題の伝承である。
関之尾の滝の下流に堰が設けられ、水田に水を送り込むようになったのは江戸時代のことであるが(付近には水の恵みに感謝を捧ぎ、出水神様が祀られている)、物語はそれよりはるか昔に遡る。
今からおよそ650年前、都城島津家の初代当主である北郷資忠が、ここで月見の宴を催した時のこと。資忠はそこに招かれたお雪という美貌の腰元を見初め、近くに寄らせてお酌をさせた。
ところが、緊張のあまり手元を狂わせたお雪は、あろうおことか資忠の着物に酒をこぼしてしまう。お雪はその失態を心から恥じ、朱塗りの杯を手にしたまま滝壺に身を投げ、自ら命を絶ったという――。
お雪が滝壺に飛び込んだ日と同じ名月の晩に、滝壺に朱塗りの杯が浮かんでくるという言い伝えが今日まで残るのも、経幸の悲しみとお雪の無念がいまだ晴れずにいるからなのだろう。
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以上、友清哲氏の新刊『消えた日本史の謎』(知恵の森文庫)から再構成しました。謎の構造物、おかしな物体、奇妙な伝承、未解明のパワースポット…不思議をめぐる旅の記録です。