ライフ・マネー
大地震で崩落の危機…「老朽化した橋」は全国に1380も!
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2018.10.10 06:00 最終更新日:2019.10.24 10:15
今年8月、イタリアのジェノバで高速道路橋「モランディ橋」が突如、崩落。自動車数十台が巻き込まれた。多くの人々が生き埋めになり、43名の死亡が確認されるなど、大惨事となった。このモランディ橋は1967年竣工で、以前から、老朽化による崩落の危険性が指摘されていたといわれる。
2007年には、米国のミネアポリスで築40年の高速道路橋が同じように崩落、9名が死亡している。国内では、2012年に中央自動車道の笹子トンネルで天井板が落下し、やはり9名が死亡する事故が発生している。これらの事故に共通しているのは、「インフラの老朽化」だ。
「じつは老朽化のみが原因で突然、橋などが壊れるということは、それほどありません。多いのは、老朽化が進んでいたところに地震などのきっかけがあって、崩壊するケースです。地震の被害に紛れてしまって見落とされがちですが、老朽化が隠れた原因であることが多いのです」
そう語るのは、東洋大学の根本祐二教授。2011年の著書『朽ちるインフラ』(日本経済新聞出版社)で、いち早くこの問題に警鐘を鳴らした、公共政策の専門家だ。
2011年の東日本大震災では、茨城県の鹿行大橋が崩落。2016年の熊本地震では、九州自動車道上に跨道橋が落下した。これらも、橋の老朽化の影響が大きいと根本教授は指摘する。
「ほかにも、2013年に浜松市で国道に架かる吊橋が突然、落橋する事故がありました。老朽化によるこのような事故は、今後もっと増えるでしょう。
1970年代には年間で約1万もの橋が全国で造られましたが、これらの橋は今後、築50年という架け替えが必要なタイミングを次々と迎えます。しかし、そのための予算は圧倒的に足りていないのです」(根本教授・以下同)
■過酷な環境下にある日本の橋
国土交通省によれば、国内には約73万の橋梁があり、このうち、建設から50年を経過したものは、2017年時点で23%。それが2027年には48%にまで増加するという。
前出の笹子トンネル事故がきっかけとなり、2013年には道路交通法が改正され、橋やトンネルなど交通インフラの点検診断が義務づけられるようになった。
同省の資料を見ると、2014~2016年度の3年間で点検をすませた橋は全体の54%。点検結果は4段階で区分され、もっとも危険な判定IV「緊急措置段階」とされた橋は、全体の0.1%で、396橋あった。その8割以上で修繕・架け替え、あるいは撤去といった措置が決定している。
「むしろ問題なのは、2番めに危険な判定III『早期措置段階』と診断された橋です。これは全体の11%もあり、しかもその大半がまだなんの措置もとられていないのです」
国土交通省は判定IIIの橋梁について、橋梁を管理する市町村に、現在の予算状況を踏まえ5年以内の措置が可能かどうかアンケートを実施した。その結果、58%が「措置は不可能」との回答だった。
地方自治体が管理する橋で通行止めや通行規制をおこなっているものは、2008年には977だったが、2016年4月時点では2559と、8年間で2.6倍に増加している。老朽化の進行、財政上の理由に加え、橋の管理に携わる土木技術者が不足していることも、その大きな要因だ。
本文下の表は、通行止めや通行規制がおこなわれている15メートル以上の橋梁を、都道府県別に示したものだ。2013年4月時点のもので、その後に架け替えや修繕がなされた橋もあるが、新しく老朽化を迎える橋もあり、その数は増えている可能性が高い。
「そもそも日本は、橋梁にとって非常に厳しい条件が揃っています。まず、急峻な地形であること。川の流れが激しく、橋を支える橋脚部分がダメージを受けやすいのです。
次に、渋滞が多いこと。とくに都市部では、重い車が橋の上に停まっていると、路盤や下部の構造が傷みやすくなります。
そして、塩害です。周囲を海に囲まれ、海水の影響を受けるところも多いうえ、寒冷地では融雪剤による塩害が起きています。ガードレールや標識への影響も深刻です」
諸外国に比べ、日本の橋のほうが過酷な状況にあるというのだ。欧米の事故を見ても「日本ではあんな事故は起きない」と思い込みがちだが、それは大きな間違いだと根本教授は言う。
「近年は、豪雨も増えつつあります。橋梁が受けるダメージは、さらに大きくなっているとみていいでしょう。橋梁の耐用年数は50年ということになっていますが、もっと早く架け替えが必要になっているものは、かなりあります」